相手の考えを読み取るには、言葉以外の要素も大切な情報源です。しかし、しぐさやジェスチャーなどは、同じ表現でもいくつかの解釈があるため、ときに正反対の意味になります。
では、相手から発せられる非言語コミュニケーションを正確に読み取り、良好な人間関係を構築するにはどうしたら良いのでしょうか?今回は、非言語コミュニケーションの意味や種類、ビジネス場面での活用方法を解説します。
目次
非言語コミュニケーションとは
非言語コミュニケーションとは、「言葉を用いないコミュニケーション」です。英語で、ノンバーバル・コミュニケーション(non-verbal communication)とも呼ばれます。
「話す」「気持ちを書き記す」といった、言葉や文字に頼らず、自分の感情や意思を伝達する方法です。声のトーン・目や表情筋の動き・姿勢・ジェスチャーなどが、非言語コミュニケーションの例としてあげられます。
非言語コミュニケーションの役割・目的
非言語コミュニケーションには、次のような役割や目的があります。
- 言葉だけでは表現しきれない感情や空気感を伝える
- 相手との距離を縮めて信頼関係を築く
- 相手の言葉にならない本心に気付ける
非言語コミュニケーションとは、言葉にならない相手の感情を感じ、意図的に雰囲気を操作しながら、円滑な人間関係の構築に役立てることが目的です。
非言語コミュニケーションとEQの関係性
非言語コミュニケーションを高めると、EQ(Emotional Intelligence Quotient; 感情知能)における共感力の向上にも寄与します。EQとは簡単に言うと、「自分や相手の感情を適切に理解し、正確に表出したり管理・コントロールしたりする力」です。
EQは「心内知性」「対人関係知性」「状況判断知性」の3要素で成り立っています。共感力は、その中でも「状況判断知性」に含まれる能力。「相手の感情を認知的に理解できているか」や「感情的に反応できるか」に関係しています。
「認知的に理解できているか」は、「相手の感じている内容がわかる」「感情を理屈で理解できる」状態です。一方、「感情的に反応できるか」は、「相手の悲しみや喜びを自分ごととして感じられるか」に寄与します。
非言語コミュニケーションの具体的な事例
非言語コミュニケーションは、看護や介護の場面からビジネス場面まで、幅広く用いられているコミュニケーション手法です。例えば看護や介護場面では、言葉で意思疎通できない患者やお年寄りの気持ちを、目の動きやささいな変化から見抜く際に活用できます。
また、ビジネス場面では、プレゼンテーションや交渉時に適切に情報を伝え、相手が言葉にできない不満や本心などを汲み取って、有利に物事を進めることが可能です。患者や顧客以外にも、職場の人間関係において、ミスコミュニケーションを減らし、円滑に関係性を築くうえで役立てられています。
非言語コミュニケーションのメリット
非言語コミュニケーションを意識すると得られるメリットを2つご紹介します。
相手の無意識に働きかけられる
非言語コミュニケーションを身につけると、相手の無意識に働きかけながらの誘導が可能です。特に、「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの情報を一致させると、真意が相手に伝わりやすくなります。
言葉で「できます」といくら言っても、声のトーンが小さかったり、眉間にシワが入って不満そうだったりすると、相手に不信感を与えかねません。しかし、非言語と言語を一致させられると、予期せぬミスコミュニケーションを回避できます。
第一印象がアップする
非言語コミュニケーションを意識すると、第一印象がアップします。
特に、ビジネス場面では第一印象が商談の成立や信頼関係の構築などの命運を分けるほど、非常に大きな要素です。「話し方」「表情」「態度や身だしなみ」を意識して改善すれば、相手により良く印象づけられます。
非言語コミュニケーションの種類
アメリカのコミュニケーション学の権威、マーク・L・ナップ氏のよると、非言語コミュニケーションは次の7つに分類できると言います。
①身体動作
身体動作による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- ジェスチャー
- 姿勢
- 視線・目の動き・まばたき・瞳孔の収縮
人間の喜怒哀楽が最も顕著に表出されるのが「目」です。「目は心の窓」とも言われるように、言葉にしなくても相手の感情は目を見ればわかると言います。
②身体的特徴
身体的特徴による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- 容姿
- 体つき
- 頭髪
- 皮膚の色
- 体臭
自分の価値観やステレオタイプに照合わせながら、人は相手を自然とジャッジする傾向にあります。
③接触行動
接触行動による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- タッチング
- 握手
- ハグ
タッチングとは、手や指先で撫でたりさすったりする肌と肌との触れ合いによる心の触れ合いです。ただし、日本人は欧米諸国と比べて握手やハグの機会は少ないため、国際的なコミュニケーションの場では、与える印象に文化差があります。
④近言語
近言語による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- 声のトーン
- 泣き・笑い
- 間投詞(ああ・ちょっと・はい)
近言語とは、声の大きさや高さ・話す速度・タイミングなど言葉を発する際の属性を指します。日本人は他国に比べて、「ああ」「はい」など、会話のなかに相づちを多く含める点が特徴的です。
⑤パーソナルスペース
パーソナルスペースによる非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- 他者との距離
- プロクセミックス
- 縄張り
プロクセミックスとは、1960年にアメリカの人類学者E・T・ホールが提唱した理論で、他人との距離の取り方も意思伝達方法の一つとする考え方です。
⑥人工物の使用
人工物の使用による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- 服飾
- 装飾品
- 化粧
特に、「TPOに合った服装ができているか」は相手に与える印象に大きな影響があります。
⑦環境的要因
環境的要因による非言語コミュニケーションの事例は、次の通りです。
- インテリア
- 照明
- 温度
環境は無意識に相手に与える印象を変えます。
例えば、青や青緑のような寒色系の照明よりも、オレンジや赤のような暖色系の方が、ゆっくり落ち着いた雰囲気の醸成が可能です。逆に、寒色系は冷静に物事に集中したいときや、誠実さや清潔感のある印象を与えたい場合に向いている色もと言われています。
メラビアンの法則からみる非言語コミュニケーションの重要性
メラビアンの法則とは、1971年にアメリカのアルバート・メラニアンが提唱した概念です。話し手が聴き手に与える影響を「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの構成要素に分類し、それぞれの影響力を指標化しています。
メラビアンの実験内容
「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの手段において、それぞれ矛盾した情報を聞き手が与えられた際、どの情報を優先して受け止めるかを実験によって明らかにしました。実験内容は次の通りです。
- 「好意」「嫌悪」「中立」をイメージする言葉を3つずつ設定。
(例えば、「好意」は、「honey(はちみつ)」) - 9の言葉を、「好意」「嫌悪」「中立」の3つのイメージをもとに録音。
- さらに、「好意」「嫌悪」「中立」を表した表情の顔写真を1枚ずつ用意。
- 矛盾する多種多様な録音と写真の組み合わせを被験者に提示
- 被験者が「好意」「嫌悪」「中立」のうち、どれに強い印象を持ったかを質問。
メラビアンの法則の解釈
情報が矛盾している場合、「視覚情報>聴覚情報>言語情報」の順に優先される」と明らかになりました。
しかし、視覚情報として示されたのは写真だけで表情の動きなどはなく、聴覚情報も演技であったため、結果を導いた要因は不確かです。よって、メラビアンの実験だけは、話す内容よりも話し方や態度が優先されるとまでは断言できません。
ただし、「言語情報」「視覚情報」「聴覚情報」の矛盾が無いように話すべきである点や、言語情報だけでなく話し方や態度を適切化すると、説得力を高めることは示唆されました。
非言語コミュニケーションのビジネス場面での活用方法
非言語コミュニケーションをビジネス場面で活用する方法について、具体的な事例をみていきます。
取引先との交渉時
非言語コミュニケーションは、商談やプレゼンテーションなど、考えを相手に伝えるビジネスシーンで有効です。活用する際には、第一に「言語情報」の内容や言葉選びに注意します。
次に「聴覚情報」である話し方・声のトーン・スピードなどを決めましょう。その際に、聞き手の性格や年齢(聞こえ方)なども考慮すると、なお良いです。
最後は、場に合った身だしなみや動作を意識します。事前に身振り手振りなどジェスチャーの練習もすると、伝えたい内容がさらに伝わりやすくなるでしょう。
上司や部下との信頼関係の構築
上司と部下の間における、通常のオフィスでのコミュニケーションでも、非言語コミュニケーションは有用です。
特に、部下は上司の言葉選びやちょっとした態度を敏感に察知する傾向にあります。骨の折れる仕事を終えたと報告に来た部下に対し、上司が目も見ず、パソコン画面を見つめながら「良くやったね」と声がけしても、部下には上司の気持ちは伝わりません。
むしろ、努力を評価されなかったことに怒りや悲しみの感情が生まれ、モチベーション低下の可能性があります。上司と部下の信頼関係を構築するうえでも、「言語情報」「視覚情報」「聴覚情報」の3要素の一致は重要です。
面接時のアイスブレイク
非言語コミュニケーションは、面接時に初対面の応募者との緊張をほぐすために活用可能です。相手に安心感を与えるような話し方や態度、表情ができると、応募者の本来の魅力を引き出せるでしょう。
面接官は短時間の間に応募者と自社とのマッチングをする必要がありますが、非言語コミュケーションを用いると、自社に対して良いイメージを持ってもらいながら、応募者の資質の見極めが可能です。
非言語コミュニケーションを学べるおすすめの本
最後に、非言語コミュニケーションを学べるおすすめの本を2冊ご紹介します。
おすすめ①:伝わり方が劇的に変わる!しぐさの技術
言葉に頼らず、状況にマッチしたノンバーバル・コミュニケーションを実践するためのノウハウを、プロのパントマイム・アーティストである著者が紹介している本です。
内容を習得して実践すれば、自分の思い通りに伝える「身体コントロール」や、相手との力関係を左右する「ステイタス・コントロール」のテクニックを身につけられます。完全な動作だけに頼るコミュニケーションだけでなく、言葉の使い方を用いた非言語コミュニケーションの会得も可能です。
仕事やプライベートで「相手に自分をどう見せるか」のコツやテクニックについて、実践的な技術を学びたい人におすすめします。
おすすめ②:ビジネスに効く 表情のつくり方 (顔は口ほどにモノを言う!)
科学的エビデンスに基づいた心理学理論と経験を融合させ、「表情」と「しぐさ」の非言語コミュニケーション術について解説している本です。普段からメールやSNSなどを通してばかりのコミュニケーションで、対人スキルが不安な人でも、営業・接客・商談・面接・プレゼンで成功する非言語コミュニケーション術を学べます。
教科書のような文章構成となっており、理論についてじっくり学びたい人や基本的な内容について知りたい人におすすめです。
まとめ
非言語コミュニケーションの意味や種類、ビジネス場面での活用方法について解説しました。要点は次の通りです。
- 非言語コミュニケーションとは言葉に頼らないコミュニケーション
- 非言語コミュニケーションには「身体動作」「身体的特徴」「接触行動」「近言語」「パーソナルスペース」「人工物の使用」「環境的要因」の7種類
- 非言語コミュニケーションをビジネスで活用すれば、交渉や人間関係で好影響が期待できる
相手に心理的な混乱や不信感を与えないためには、「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの整合性が大切です。本文でご紹介した内容を、ビジネスや日常生活でぜひお役立てください。