意図せず感情的になって怒鳴ったり責め立てたりすると、人間関係に致命的なキズを残しかねません。しかし、アンガーマネジメントを習慣づけられると、感情をコントロールでき、人間関係のストレスが軽減されます。
そこで、今回はアンガーマネジメントの効果的な方法について、EQのスキルとの関連性を交えて解説します。ネガティブ感情を思うままに操り、気苦労から解放されましょう。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、とっさに感じる怒りやイライラに対して、うまくコントロールすることです。感情的になりすぎる人にとっては、人間関係をうまく進められない原因になったり、自分の本当の気持ちがわからなくなったりといった、マイナスの側面があります。
そもそも「怒り」とは
怒りとは、人間が持つ基本的な感情の一つです。心理学的に怒りは二次感情と言われています。怒りを感じる場合には、悲しみや不安などの一次感情があり、一次感情が二次感情を誘発しているのです。
例えば、怒りの感情は自分の思い通りに物事が進まなかったり、他人から見下されたり、身体を傷つけられたりした際に生じます。
一般的に怒りにはネガティブなイメージがありますが、実は怒りそのものは悪い感情ではありません。怒りは人間が持っている防衛本能であり、使い方によっては怒りの前向きな昇華が可能です。
アンガーマネジメントはEQの自己管理スキルに関係する
アンガーマネジメントは、EQの自己管理スキルに関係する能力です。では、そもそもEQや自己管理スキルとは何なのでしょうか?
EQの基本的な意味
EQとは、Emotional Intelligence Quotientの頭文字をとった略称です。日本語で「感情知能」とも呼ばれています。アメリカの心理学者、サロベイ氏とメイヤー氏が提唱した、感情に関する知能指数です。
基本的に、EQが高い人は「自分や他人の感情を正確に認識でき、その感情をうまく管理したりコントロールしたりできる力が高い人」とされています。
EQを高めるうえで重要な4つのスキル
EQを高めるうえで重要なスキルは、次の4つがあります。
- 自己認知スキル
- 自己管理スキル
- 社会認識スキル
- 人間関係管理スキル
先述した通り、アンガーマネジメントは自己管理スキルに含まれる能力です。ただし、そもそも自分の感情を正しく認識できていないとうまく管理できないため、自己管理スキルを高めるには自己認知スキルの習得が前提とされています。
アンガーマネジメントが注目を集めている社会的背景
近頃、アンガーマネジメントは日本のビジネス場面を中心として注目を集めています。考えられる社会的背景は次のとおりです。
- パワハラやセクハラに対する社会全体の意識が高まった
- インターネットやSNSで職場いじめや嫌がらせの問題が可視化された
- 職場の人間関係によるストレス低減が重要視されるようになった
アンガーマネジメントはこのような社会的背景に対して、人間関係を円滑にしたりストレスを軽減させたりする効果があります。
アンガーマネジメントにより実現できること
アンガーマネジメントが効果を発揮すると、職場や日常生活において次のようなメリットがあります。
- 怒りによるストレスを感じにくくなる
- 仕事へのやる気がアップして生産性も上がる
- 多様性を尊重できるようになり、視野が広がる
- 教育やコーチング場面で役立つ
アンガーマネジメントの方法
ジーン・グリーブス氏とトラヴィス・ブラッドベリー氏らの著作、『EQ2.0 心の知能指数を高める66のテクニック』で紹介されていた方法を根拠にしながら、アンガーマネジメントに効果的な3つの方法を紹介します。
方法①:正しい呼吸を意識する
正しい呼吸とは、腹式呼吸による深い呼吸のことです。
一般的に、脳に入った酸素はまず身体の基本的な機能に使われ、残った酸素が注力や集中力や落ち着きに関与します。よって、浅い呼吸しかできていない人は自己管理スキルが低下します。
正しい深い呼吸をする手順
ジーン・グリーブス氏とトラヴィス・ブラッドベリー氏らが言う、「正しい深い呼吸」の手順は次の通りです。
- ゆっくりと深く息を吸い込む
- お腹と胸が膨らむのを感じる
- 酸素が脳まで行き届くような感覚を持つ
- 肺が完全に空っぽになる感じで、今度はその息をゆっくりと吐き出す
胸とお腹の上に片方ずつ手を置き、息を吐く際にお腹の上においた手が胸の上の手より大きく動いているかで正しい呼吸は確認可能です。
方法②:10まで数える
「10まで数える」とは、怒りにすぐに反応せず、間を取って頭を冷やすアンガーマネジメントの方法です。すぐに感情的になってしまい、あとで冷静になって怒ったことを後悔しがちな人に向いています。
10まで数える手順
手順は、とてもシンプルです。
- 怒りやイライラしている自分を自覚する
- 感情的になりそうになったら、深い呼吸を意識する
- 1回の「吸って吐いて」を、1サイクルとして10回数える
この手順を意識的に実践すると、怒りを客観的に昇華できる場合があります。
方法③:笑って感情をコントロールする
ムリやり笑顔を作ったり、笑ったりすることは自己管理スキルをアップさせるのに効果的なテクニックです。笑顔を作ったり笑ったりするだけでハッピーな信号が脳に送られるためと言われています。
例えば、フランスの大学で行った実験では、笑顔を作って漫画を読むグループとしかめっ面で漫画を読むグループに分けた場合、笑顔で漫画を読んだグループの方が漫画を遥かに面白いと感じたという結果があります。つまり、この実験結果は、同じ状況でも自分の感じ方次第で、物事はいくらでも面白く感じられると示しています。
脳が顔の筋肉の動きを察知し、「ハッピーな状態だ」と勘違いするからです。脳が幸せだと錯覚するとハッピーな気分に自然となるため、ムリに笑顔を作るだけでネガティブな心の状態の緩和が可能です。
笑って感情をコントロールする際のポイント
笑って感情をコントロールする際のポイントは「ハッピーな表情を作る」「ハッピーな声を出す」「ハッピーな動きをする」の3つです。強制的に笑うことで、感情を変化させることが可能です。
笑いはこれら3つのポイントをすべて同時にできる、非常に効率の良いテクニックだと言えます。
アンガーマネジメントで最も重要なのは「充電時間」
充電期間は、自己管理スキルを維持するうえで重要な脳をリラックスさせる時間です。
充電時間がもたらす自己管理スキルへの好影響
充電時間を設けると、血流が促進されセロトニンやエンドルフィンといった脳内物質が増加し、幸福感や注意力が向上するなど、心身にとって良い効果が期待できます。充電時間を設ける際は、ちょっとした場面や動作と関連させて実行しましょう。
例えば、ヨガやストレッチ、ガーデニングや散歩などの軽い運動や、ちょっとした体の動作などです。望まない移動時間や待ち時間などはイライラしがちですが、貴重な充電時間と意識転換するとリラックスできます。
充電時間を設ける際のポイント
心の充電は歯磨きと同じくらい、日々の当たり前の習慣とすることが重要です。忙しくて充電する時間がなくても、毎日充電の時間を取る方がより多くの作業をこなせるようになります。
充電期間があると集中力や判断力が高まり、より少ない労働時間でたくさんの物事の処理が可能です。どんなに忙しくても、1日1回は運動や瞑想などのリラックスタイムを設けてみてはいかがでしょうか?
アンガーマネジメントが効かない場合
今回紹介したアンガーマネジメントが効かない場合は、根本的な生活習慣の見直しから始めてみましょう。「睡眠」と「運動」の2点に焦点をあてて解説します。
睡眠を見直す
睡眠時間が十分ではなかったり、質が悪かったりすると、疲れが取れずにイライラしやすくなるため、感情のコントロールがうまくいかない場合があります。
毎日何時間眠れば良いかは体質・性別・年齢などによるため、実は明確な基準はありません。自分にとって最適な生活リズムを分析し睡眠時間をきちんと確保したうえで、体内リズムを整えることが大切です。
運動をおこなう
身体の健康と感情には深い関係があると最近の学術的な研究で明らかになっています。実際、運動をしていないと、感情の起伏が激しくなるというデータがあるほどです。
病気にならないために、最低でも確保したい運動量は週に150分です。さらに上のレベルを目指すなら、週に2回〜3回、45分~60分程度の運動が必要です。
運動内容は、少しの筋トレを含めながら、ウォーキングやランニングなどの有酸素運動がベストと言われています。
アンガーマネジメントを学ぶのにおすすめの本
それでは、アンガーマネジメントを学ぶのにおすすめの本を3つ紹介しましょう。
おすすめ①:怒らない習慣力
「怒らない!」と感情を押し殺すのではなく、「怒ることを選択しない」「感情に振り回されない自分」になるためのステップが書かれている本です。実際に本を読み進めながら実践できるワークもあるため、基本と実践を同時にできます。
イラストや要点がマーカーでまとめられているため、時間のない人でもスッと内容が頭に入ってきます。怒りを手放して、心に余裕を持ちながら平常心で過ごしたい人におすすめです。
おすすめ②:アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング
対症療法としてのアンガーマネジメントだけでなく、広い視点からストレスマネジメントを身に着けられる本です。怒りをコントロールできる自分になるためのマインドや習慣が紹介されています。
怒りを相手に上手に伝えるためのコミュニケーション法に焦点を当て、具体的な事例が豊富です。付録には、怒りが生まれがちな場面でどう対応するべきかのアドバイス集もついています。
おすすめ③:怒る上司のトリセツ
怒りの対処法から心のケアまで、例を用いながらわかりやすく説明している本です。「怒られないようにする」「我慢する」のではなく、巻き込まれないように自分を守る方法が書かれています。
起承転結を心がけたコミュニケーションや一次感情での伝達などを実践するうちに、良好な関係性の構築が可能です。職場に高圧的な人がいて困っている人や、理不尽に怒られたときほどおすすめです。管理職の人が読んでも、部下の気持ちがさらによく理解できる内容となっています。
まとめ
アンガーマネジメントの効果的な方法について、EQのスキルとの関連性を交えて解説しました。要点は次の通りです。
- アンガーマネジメントはEQの自己管理スキルに関わる能力
- アンガーマネジメントの方法は「正しい呼吸法を意識する」「怒りを感じたら10数える」「笑顔を作って感情をコントロールする」の3つ
- 脳をリラックスさせる充電期間を1日1回設けると、自己管理スキルの意地に効果的
ネガティブな要素の多い「怒り」ですが、コツをつかめば前向きな力への変換が可能です。今回で紹介した内容を、円滑な人間関係や組織の生産性の向上にぜひお役立てください。