感情リテラシーとは、EQの自己認識において基本的かつ重要な役割のある能力です。感情リテラシーの力を向上させると、EQの能力もアップするとも言われています。
そこで今回は、EQの能力において最もベースとなる能力である「感情リテラシー」に焦点を当て、EQとの関連性や能力の伸ばし方についてお伝えしていきます。
目次
感情リテラシーとEQ
感情リテラシーは、EQ(Emotional Intelligence Quotient)のベースとなる能力です。まずは、感情リテラシーとは何なのか、EQを構成する8つの能力とあわせてみていきましょう。
感情リテラシーとは
感情リテラシーとは、感情を認識して言葉として表現できる能力です。「リテラシー」とは「読み書きできる能力」を意味します。
EQを構成する8つの能力
EQを構成する能力は大きく分けての3つです。
- 自分の感情を知る能力
- 自分の感情を選ぶ能力
- 自分の感情をより良く活かす能力
そして、さらにEQは8つの能力に細分化できます。
知る能力①:感情リテラシー
「感情リテラシー」は、「自分の感情を知る能力」に分類されます。先述したとおり、「感情を認識して言葉として表現できる力」です。
感情リテラシーとは、単純な感情から複雑な感情まで正確に認識したり解釈したりする力とも言えます。
知る能力②:自己パターンの認識
「自己パターンの認識」は、「自分の感情を知る能力」に分類されます。習慣的に反復している感情的な反応や行動を認識する力です。
選ぶ能力①:結果を見据えた思考
「結果を見据えた思考」は、「自分の感情を選ぶ能力」に分類されます。自分の目の前にある選択肢のメリットとデメリットに関して、事前に思慮深く考えられる力です。
選ぶ能力②:感情の誘導
「感情の誘導」は、「自分の感情を選ぶ能力」に分類されます。感情から自分の状態を把握して、感情をより良い方向に活かしたり変化させたりしてコントロールする力です。
選ぶ能力③:内発的モチベーション
「内発的モチベーション」は、「自分の感情を選ぶ能力」に分類されます。報酬や他者からの評価など外発的な理由ではなく、自分の価値観や責任感など心の内から生じるエネルギーが元になる動機を生み出す力です。
選ぶ能力④:楽観性
「楽観性」は、「自分の感情を選ぶ能力」に分類されます。困難な状況に直面しても、ポジティブな可能性を信じて、生産的な展開へと働きかけられる力です。
活かす能力①:共感力
「共感力」は、「自分の感情をより良く活かす能力」に分類されます。相手がどのような気持ちなのか直感的に察し、適切に対応できる力です。
活かす能力②:ノーブルゴールの追求
「ノーブルゴール」は、「自分の感情をより良く活かす能力」に分類されます。ノーブルゴールとは、自分がありたい姿に関して明確なイメージです。
ノーブルゴールの追求とは、その崇高なゴールを追求する姿勢を言います。
感情リテラシーとEQの関係
感情リテラシーはEQの重要な「自分を知る能力」において大切な力です。自分を十分に認識できていないと、「自分が今、何を感じているのか」「何をしているのか」「何をしようとしているのか」が曖昧になります。
感情リテラシーとEQの関係は、このような自己認識における「何を(が):What」の部分において、影響し合っているのです。
感情リテラシーが高い人の特徴
感情リテラシーが高い人とは、具体的にどのような特徴のある人なのでしょうか?感情リテラシーの高い人が持つ代表的な特徴を3つ紹介します。
感情を表現する言葉を知っている
感情リテラシーが高い人は自己認識能力が高いため、自分がどのような感情をもっているのか相手に適切な言葉で伝える力があります。出来事によって派生する感情を漠然と受け取るのではなく、「自分は今どのような感情を抱いているのか」「どうして自分はこう感じるのか」を咀嚼できるのです。
この側面は感情の渦に飲み込まれるのを防ぎ、自分の精神的な状態を客観的に見つめる際にも有用と言えます。
異なる感情の関係性を把握している
感情リテラシーが高い人は、「怒り」と「喜び」といった異なる感情の関係性を把握しています。異なる感情は簡単に移行しにくいものですが、対極にある感情の関係性が把握できると、複雑に交わる感情を整理して捉えることが可能です。
例えば、怒りを感じた際に「自分は怒っている」「どうして怒っているのか」「怒りをポジティブに考えられないか」という風に、より良い方向に感情を誘導させられます。
感情の変化過程がわかっている
感情リテラシーの高い人にとっての感情は、白黒はっきりしているものではありません。感情リテラシーの高い人にとっての感情とは、グラデーションのように変化過程がわかる多様性に溢れたものです。
複雑な感情の変化を認識できる力に長けているので、「どうして自分はこのような心情に変化したのか」を認識し、はっきりとした根拠をもとに感情の認識ができます。
感情リテラシーにおける「プルチックの感情の輪」
「プルチックの感情の輪」とは感情を色で表したもので、感情の強弱が色の濃淡で把握が可能です。複雑な感情を色覚化できるため、感情の相互理解や感情リテラシーの向上にも役立つとされています。
つまり、プルチックの感情の輪を理解できれば、EQにおける「感情を認識して特定して導く」という重要な能力の向上が可能なのです。感情リテラシーにおける「プルチックの感情の輪」についてみていきましょう。
感情リテラシーを構成するベース
プルチックの輪を構成する感情のベース(純粋感情)は次の8つです。
- 喜び:望みが達成された際に沸き起こる幸福な気持ち
- 信頼:不安がなく安心できる気持ち
- 恐れ:危険や悪から逃げたい気持ち
- 驚き:予期しない体験をした時の瞬間的な気持ち
- 悲しみ:望み通りにいかなかった時や喪失感による残念な気持ち
- 嫌悪:憎しみ嫌い、不快に感じる気持ち
- 怒り:侮辱されたり傷ついたりした時に感じる不愉快な気持ち
- 期待:自分の思い通りになることを望む気持ち
これらの8つの感情は、人間の基本的な感情として定義づけられています。
色彩と感情の強さの関係性
色彩と感情の強さにはそれぞれ強度差があります。プルチックの輪では感情にグラデーションがあると考え、色の濃淡で感情の強さを表現しているのです。
- 恍惚>喜び>平穏
- 敬愛>信頼>容認
- 恐怖>恐れ>不安
- 驚嘆>驚き>放心
- 悲嘆>悲しみ>哀愁
- 強い嫌悪>嫌悪>うんざり
- 激怒>怒り>苛立ち
- 警戒>期待>関心
プルチックの感情の輪では、中央に向かうほど強く明確な感情の認識が可能です。一方、輪の外側に向かうほど、隣り合う感情との違いがわかりにくくなります。
例えば、「恐怖・驚嘆・悲嘆・強い嫌悪・激怒・警戒」の感情はプルチックの輪の中央部分に位置するので、強く感情が認識されます。しかし、「不安・放心・哀愁・うんざり・苛立ち・関心」といった感情は輪の外側に位置するので、感情の違いが曖昧になる場合があるのです。
異なる感情の関係性
8つの感情のベースにはそれぞれ対になる関係性があります。
- 喜び⇔悲しみ
- 信頼⇔嫌悪
- 恐れ⇔怒り
- 驚き⇔期待
対になっている感情同士は簡単に移行しない様子を表しています。例えば、悲しんでいるときには喜びの感情は表出しにくく、信頼の感情が強い時には嫌悪の感情は表出されません。
感情リテラシーの高め方
感情リテラシーを高める代表的な方法を2つご紹介します。
感情日記をつける
感情日記とは、その日に生じた感情を理由と一緒に毎日記録する行為です。「どうしてその気持ちが生まれたか」が感情と紐付けられるため、後から自分を客観的に振り返えられます。
ただ、いきな感情を言葉にするのが難しい方もいらっしゃるでしょう。そのような方は、まずは次の感情日記の書き方の流れに沿って感情を書く習慣をもってみてください。
- その日に最も感情が揺さぶられた出来事を1つ書く
嬉しかった、悲しかった出来事など何でも構いません。一番印象に残っているその日の出来事を書き出してみましょう。
- その出来事に対して感じた内容を書く
書き出した出来事についての率直な感情を書きます。誰かに見せるわけではないので、他者評価を気にせず、素直な感情のまま書き出すことがポイントです。
- どのような感情になったか、パーセンテージで数値化する
出来事によって生じた感情の度合いをパーセンテージで数値化しましょう。数字は自分の感覚で決めて構いません。
感情を数値化すると、後から記録を振り返った際に、ご自身がどのような出来事でどれくらい感情的になるのかが把握できます。
- どうしてその気持ちになったか理由を考える
数値化とあわせて、どうしてその気持ちになったのか理由も記載しておきましょう。感情が生じた理由がはっきりすると、自分の感情のクセやパターンが客観的にわかるようになります。
特に、ネガティブな感情が生じた際に、冷静な気持ちで自分のモヤモヤを整理して昇華させることが可能です。
アプリで感覚的に感情を記録する
「Daylio」というアプリを活用すれば、簡単に感覚的に感情を記録できます。
Daylioとは毎日の気分を日記のようにシンプルに記録できるアプリです。文字を一切タイピングする必要なく、感情を記録できます。Daylioの主な機能は次のとおりです。
- 感情の記録
Daylioはアプリを起動してから最低4タップで5段階の感情を記録できます。感情の色は好きに選ぶことが可能です。例えば、嬉しいスタンプの色は黄色、悲しいスタンプの色は赤色など自分で好きに色彩を決められます。
また、スタンプだけでなく文章も併記できるので、些細な気付きや補足の記入にも便利です。体調の変化を入力すれば、「なぜその感情が生じたか」が後からでもわかります。
- 統計の確認
Daylioは過去に「どのような行動をしたのか」「どんな気持ちだったのか」という統計をカレンダーから確認が可能です。選択した感情の時に多く選ばれたアクティビティも確認できるので、感情と行動を関連づけた分析もできます。
画面1つで1年間分の感情を確認できるため、手軽に気分のサイクルを発見できることも魅力です。人間関係による感情の揺れだけでなく、季節性の感情の起伏も一目で気づきやすくなります。
また、1週間ごとに前週の感情と比較したレポートを作成してくれるサービスもあります。
- リマインダー設定
感情日記を紙媒体のようなアナログで記録するとなると、記載し忘れが懸念されます。その点、Daylioにはリマインダー機能がついているので、記載のし忘れの心配がありません。設定した時間に通知を送ってくれるので、毎日忘れずに感情を記録できます。
まとめ
EQを構成する能力において最もベースとなる「感情リテラシー」について解説しました。要点は次の通りです。
- 感情リテラシーとは「感情を認識して言葉として表現できる能力」であり、EQの「自分の感情を知る能力」に分類される。
- 感情リテラシーとEQは、自己認識における「何を(が)What」の部分において、影響し合っている。
- 感情リテラシーの高い人は自分の感情を適切な言葉で表現でき、この力は異なる感情の関係性や感情の変化過程への理解にもつながっている。
感情リテラシーは感情日記をつけたり、アプリを活用したりといった日常的な方法で高められる能力です。紹介したEQの知識を、日常生活やビジネスでぜひご活用ください。