EQ(Emotional Intelligence Quotient)とは、1990年代にアメリカの心理学者であるピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏が提唱した「感情に関する知能指数」です。彼らはビジネス社会で成功する要因は「IQに代表される頭のよさや学歴の高さではなく、対人関係能力に影響する」と明らかにしました。では、EQは具体的にどのようなビジネス場面で活用し、高められるのでしょうか?
本記事は、EQと仕事力の関係性について解説します。ビジネスで活かせるEQの能力やトレーニング方法を知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
目次
EQが仕事で重要視される理由
「EQが高い人ほど、ビジネスで成功しやすい」という事実は、多くの学術研究によって示唆されています。ここでは、まずEQと仕事力に関する研究を2つ紹介しましょう。
根拠①:ウォーレン・ベニス氏の研究
ウォーレン・ベニス氏は、レーガン元大統領やカーター元大統領などの顧問を務めた経験もある、リーダーシップ研究の権威者です。
有名な著書『リーダーになる』で、彼は「リーダーは生まれ持った才能でなるのではない」という言葉を残しています。「自分の性格や価値観を把握し、才能や資質を伸ばす努力ができれば、誰でもリーダーになれる」という考えが、この本の主題です。
また、「EQはIQや専門知識よりも重要な素養」というスタンスを取っています。「仕事が成功するかどうか80%以上はEQによる」「IQはビジネスパーソンにとって必要不可欠な要素だが、IQの高さは社会的な成功の要因にならない」と言います。
一方、EQとビジネスの関係性については「EQが高い人は特別な存在になれる」と、仕事でのEQの重要性に言及している点がポイントです。
根拠②:マーク・マーフィー氏の研究
リーダーシップ研究の専門家マーク・マーフィー氏によると、「EQの高さと仕事力の高さには相関性がある」と言います。彼はコンサルティング企業リーダーシップIQの新たな報告書「The State Of Leadership Development In 2020(2020年のリーダーシップ育成状況)」において、2万1,008人の従業員を対象に調査を実施。リーダーの能力を評価した実績があります。
調査の中で、マーク・マーフィー氏はリーダーシップとEQとの関連性を示唆しています。例えは、EQが高い人は自己認識能力が高く、自分の強みや弱みを的確に理解している点が特徴的です。
また、健全な自信を持っているため、失敗やミスがあっても過度に感情的になったり動揺したりしません。修正すべきことが何なのか、客観的な観点から注意を向けられます。
他者のミスや異なる価値観にも寛容な姿勢を持っており、偏見を抱いたり相手を否定したりがありません。こうしたEQの特性が、仕事上の成功につながっていると言います。
カッツモデルからみるEQとマネジメントの関係性
カッツ・モデルとは、アメリカの経済学者ロバート・カッツ氏が提唱した、マネジメント職とビジネススキルの関係性を明示したモデルです。今から70年以上前に提唱された理論ですが、現在でも十分に通用する指標として、多くの組織で役立てられています。
カッツ・モデルの活用により、育成ターゲットごとの必要な教育が把握可能です。社員にとっても、今必要なスキルは何かが視覚的に理解しやすい特徴があります。
カッツモデルにおけるマネジメントで必要な能力
ロバート・カッツ氏は、マネージャーに必要な能力を次の3つに分類しました。
- テクニカル・スキル(業務遂行能力):担当業務を問題なく遂行するために必要な知識や技術を持つ能力。
- ヒューマンスキル(対人関係能力):社内外のあらゆる関係者と円滑な意思疎通をはかり、良好な人間関係を築く能力。
- コンセプチュアル・スキル(概念化能力):複雑なものごとの状況や構造などを、俯瞰的・体系的に捉えて概念化し、本質を見極めて対応する能力。
3つの能力の中でも、特に「コンセプチュアル・スキル」は職位が上がるほど必要性と重要性が増すと言われています。マネージャーには部門に関する多種多様な重要問題に対処する必要性があり、マニュアルに当てはめて正解が出るものではないからです。
場に応じた思考力が求められるため、単純で一律的な教育による習得が難しいとされています。
EQとマネジメントとの関係性
「カッツモデルのどの階層のマネジメントもヒューマンスキルが重要だ」と言われています。つまり、ビジネスにおいて人間関係の構築をするコミュニケーションスキルが重要です。
現代型のリーダーシップは、「自分たちで考えて行動できる」自律した人材の育成がリーダーの務めとされる傾向にあります。自律的な人材を育てるには、チームメンバーがリスクを取ることに躊躇せず、お互いの弱さをさらけ出せる環境が重要です。この考え方は、心理的安全性にも関係します。
自分を律してより良い方向に組織を導くには、優れた直感力やスピード感が必要です。そしてまず、リーダー自身が自律的な人間となり、部下にその姿を示す必要があります。
EQはヒューマンスキルをはじめとしたコミュニケーションスキルに通じる総合的な力です。EQの力とリーダーとして必要なマネジメントスキルには、関係性があると示唆されています。
EQの高い人材が持つ特性
EQは、IQとは異なる可変的な能力であり、大人になってからも伸ばせる力です。では、EQが高い人材は、具体的にどのような特性があるのでしょうか?
結論からいうと、EQの高い人は低い人とは異なる感情サイクルを持っています。「感情サイクル」とは、EQ理論とも関連する4つの能力です。
- 感情の識別:自分や周囲の人の感情を的確に読み取る能力。
- 感情の利用:目標達成のためにふさわしい感情を作り、相手に共感できる能力。
- 感情の理解:感情の特性を理解し、どのように変化するか推測できる能力。
- 感情の調整:感情を適切に調節したり、判断に活用したりする能力。
感情サイクルの違いについて
EQが高い人は感情のサイクルをより良く回せます。例えば、ご自身の会社内で仕事のデキる人には次のような特徴があげられるのではないでしょうか?
- いつも平常心で接してくれる。周囲の言葉にならない気持ちも汲んでくれる:感情の識別
- 場の空気を読んで、自分ごとのように相手に共感できる:感情の利用
- 自分や他人の感情のクセを理解し、どう変化するかを先読みできる:感情の理解
- 感情をより良い方向に管理し、トラブルやミスにも冷静に判断できる:感情の調整
逆に、EQが低い人は、感情のサイクルがうまく回せない人です。つまり、自分や他者の感情がよく理解できないため、場違いな表情や感情を持ち、自分の行動が相手に与える影響を予測できず、不適切な行動を取ってしまいます。
EQが仕事で生きる場面
社会的な成功とEQの能力との関連性が理解できたところで、次は活用場面についてです。ここでは、EQが仕事で活きる代表的な事例を3つ解説します。
リーダーシップ
管理者のEQを高められると、職場を巻き込んだ働きかけができます。管理職が率先してチームを率いれると、部下の多種多様な意見を引き出しながらチームを最善な方向に導けるからです。
例えば、管理者がEQを学んで実践できると、リーダーシップに関して次のようなメリットがあります。
- 社員が精神的な健康を保ちながら、活き活きと働ける環境が作れる。
- リスクの芽を早期に発見して対処できる。
- トラブルが生じても、動揺せず的確な指示が出せる。
- モチベーションの低い社員への適切なサポートができる。
- パワーハラスメントを未然に防げる。
活動の一方的な押し付けでは、職場の現状は効果的に変わりません。職場の現状や人数、問題点をしっかり把握し、組織に働きかけながら、問題意識を共有が重要です。
目には見えない感情を数値化し、具体的に現状を把握できると、研修成果が可視化できます。周囲にも客観的な指標を示せるため、納得した形で実践が可能です。研修は単に聴くだけで終わらず、自己学習を挟みながら成果を確認すると、期待する行動変容に近づきます。
交渉場面
EQを高められると、相手の感情を適切に推測できるため、交渉場面で有利な対策や働きかけができるようになります。他人の感情を的確に識別し、理解して利用できるからです。
例えば、営業に携わる人や経営者がEQを学ぶと、交渉場面で次のようなメリットがあります。
- 営業先や取引先の企業との交渉や折衝で有利に進められる。
- 相手の不安や疑問を先回りして推測し、解決策を提示できる。
- 相手に不快な思いをさせない言動ができる。
- 過度な自信や極度の緊張がなくなり、フラットな態度で交渉に臨める。
- 交渉がうまくいかなくても、次に成功するための適切なアクションが取れる。
他者の気持ちは、言語化されていない非言語の部分も多く存在します。EQが高い人は、相手のちょっとした言葉から相手が本当に望んでいる本質を理解するのに長けているため、交渉の主導権をうまく自分が握ることが可能になるのです。
仮に、交渉がうまくいかなくても、感情と事実を切り離して分析でき、クヨクヨしたり過度に落ち込んだりもなくなります。「失敗は成功するためのプロセスに過ぎない」と、前向きな対応ができるのです。
人材育成
採用や人事のミスマッチの防止や、個人の能力を最適化する人材育成のためにEQが活用されることがあります。例えば、人事や経営トップがEQを学んで実践できると、人材育成に関して次のようなメリットがあります。
- 部下が前向きな感情を育めるような働きかけができる。
- 多様化する社員の強みや弱みを把握できる。
- 人事のミスマッチや早期離職を防げる。
- 社内業務のサポート役へ適切な配慮ができる。
- 採用時の客観的な指標として活用できる。
会社にはさまざまな部署があり、それぞれに置かれている役職や立場の異なる社員がいます。よって、その全員が同じ方向に向かってモチベーションを保つことは非常に困難です。
しかし、社内の人間関係が円滑化かどうかは業務の生産性や業績にも大きな影響があるため、看過できません。人材育成にはコストと時間がかかりますが、適材適所の人材配置は会社の業績や長期的な存続に関わる非常に重要なポイントです。
仕事で活用できるEQを高めるトレーニング方法
たとえEQが低くても、心配する必要はありません。ピーター・サロベイ氏も「EQはテクニカルスキル。他の能力と同じように、意識し行動すれば、磨き高められる」と述べています。
EQについて理解し仕事場面で活かせる方法を理解すれば、少しずつEQを高めることが可能です。ここでは、EQの一般的な研修(トレーニング方法)を解説します。
ステップ①:自分から弱さを見せる
まずは、企業が持つ課題について、リーダー自身が素直に従業員と共有する姿勢が大切です。リーダーや経営トップ自身が弱みや完璧ではない事実を認めることは、「能力が低いと思われるのでは?」「甘く見られるのでは?」と不安に思う事柄です。
しかし、実際には、従業員は会社の課題に対して議論するのを厭わないリーダーを求めている傾向にあります。「リーダー自身が企業の課題を素直に共有するほど、従業員は仕事で最善を尽くすようにモチベーションを高める」と、社会的調査でも明らかにされています。
ステップ2:誇張を避ける
弱さを示す際には、感情と事実を区別して伝えることが重要です。従業員に「この会社の業績は崩壊している」と伝えたとしても、事実に基づいた適切な伝達とは言えません。「崩壊している」とは具体的にどのような面がどれだけ悪いのかわからないからです。
壊滅的な業績とは、「今週の業績なのか、1年の業績なのか?」「業績が20%ダウンしたのか、80%ダウンしたのか?」といった、実態が具体的に把握できる必要があります。「組織が課題に直面している際に使用すべきでない」と言われている、誇張表現は次の通りです。
【課題に直面している際に使用すべきでない10の誇張表現】
- いつも
- 絶対~ない
- 何も(ない)
- 不可能
- 崩壊しつつある
- 全て
- 打撃を受けた
- 巨大な
- 計り知れない
- 致命的な
ステップ3:感謝を伝える
従業員が弱さを受け入れて、新しいアイディアや解決が必要な課題をあげるようになったら、感謝の気持ちを伝えましょう。リーダーが苛立っていたり無下に扱ったりすると、今までの効果が水の泡となります。
弱い存在に見えることなく弱みを見せるには、「自律的な考えで弱さを示している」という印象を常に与えることが重要です。「課題の共有は、自分たちのアイディアでやっている」「上司に指示されてイヤイヤやっているのではない」といったスタンスを示せれば、リーダーシップを持ちながら周囲を巻き込む施策が可能です。
まとめ
EQは、社会的な成功において必要不可欠な能力です。EQが高い人なら、ビジネスにおいて特別な存在に近づけます。
EQはIQとは異なり、後天的に伸ばせる能力です。感情を把握し、長所を伸ばす努力ができれば誰でもEQの高い人材になれます。
弊社が提供する「EQGW」は、管理職から新人社員まで対応できるEQの研修・コーチングサービスです。独自のEQ検査と高い専門性を持つコンサルタントがチームや個人に最適な方法でサポートします。
詳しくは「管理職向け・新人社員向けEQ研修・コーチングの「EQGW」」の記事で紹介しています。研修やコーチングで効率的にEQを伸ばしたい方は、ぜひ併せて読んでみてください。