EQリーダーシップは、「感情のレベルにはたらきかける」というコンセプト理論をベースにしたリーダーシップです。しかし、一般的なリーダーシップとの違いを、日本で実践的に理解できている人は多くありません。
そこで、今回はEQリーダーシップとはどのようなリーダーシップを指すのか、特徴やメリット、理論を実践できる書籍の紹介なども交えて解説します。
目次
EQリーダーシップとは?
そもそも、EQリーダーシップとは一般的な組織で呼ばれるリーダーシップとどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは、EQリーダーシップとはなんなのか、基本的な理論の考え方やリーダーシップに必要な領域について解説していきます。
EQリーダーシップ理論
EQは「Emotional Intelligence Quotient」の略称で、日本語では「感情知能」と呼ばれています。
EQリーダーシップ理論とは、20世紀の終わりごろにダニエル・ゴールマンにより提唱されたEQに関する体系的な知識です。彼の理論は、実務や体制の向上よりも、グループメンバーの感情へのはたらきかけを重視していることが特徴です。上司が部下の感情を正しく方向付けることが経営運営をよりよい方向に導くという考え方を取っています。
EQリーダーシップに必要な4領域
先述したように、EQリーダーシップとは人間関係を重視し、職場環境の改善や部下のモチベーション維持に配慮するリーダーシップです。つまり、実務での引率力よりもメンバーの感情を尊重する特性があります。
他者の気持ちを理解するためには、共感力がなければなりません。しかし、その共感力を手に入れるためには、まず自分の感情を正しく理解する必要があります。
次の4つの領域は人間関係を良好に保つために必要なステップです。これらすべてを段階的に通過できるようになると、EQリーダーシップを段階的に育めます。では、それぞれの領域について解説しましょう。
領域①:自分の感情の理解
1つ目の領域は「自分の感情の理解」です。つまり、自分や周りの人がどのように感じているかを識別できる能力のことです。
自分の感情や状態を把握するのは容易に思えますが、実際に言語化して咀嚼しようとしても、細かいニュアンスの細部までを表現するのは難しいものです。いわんや、他者がどのように感じているかを知覚して捉えることは、非常に難しいと言えるでしょう。
自分が「おもしろい」「楽しい」と感じても、相手にとってはとるに足らない出来事や感情である場合は少なくありません。しかし、EQを高める上では、その相手が「とるに足らない」と感じる感情を深堀して具体化し、より適切な言葉に変換することが求められます。なぜなら、このように相手の感情に寄り添うことで、相手がどのようなか感情をもっているのかを正確に識別することが可能になるからです。
領域②:自分の感情のコントロール
2つ目の領域は「自分の感情のコントロール」です。
つまり、1段階目の領域で理解した自分の感情に対して、思考や行動を自助するための感情を生み出す能力のことです。
目標を達成するためになんらかのアクションを起こすとき、その結果の是非を左右する要素の一つとして、「モチベーション」があげられます。モチベーションを目標達成のためのふさわしい状態にある程度導ければ、より質の高い結果を得ることが容易になるのだと言えるでしょう。
また、自分の感情をコントロールできれば、他者とのコミュニケーションにおいて、「相手に共感する能力」も得やすくなります。共感する能力が身につけば、相手の立場で物事を把握し、相手の感情に共感しながら状況に即応した感情表現もできるようになります。
領域③:他者の感情の理解
3つ目の領域は「他者の感情の理解」です。つまり、相手の感情が生み出された原因や特性を理解し、次に生まれる感情を予測する能力です。
たとえば、仕事でなんらかのミスをした場合。周囲の人は失敗を悲しんだり悔しがったり心配したりするかもしれません。しかし、このようなネガティブな感情は失敗する恐怖や他者への不信感など、さらに大きな負の感情につながる可能性があります。
したがって、リーダーとしては仲間がなんらかのミスを犯した際に、他者の感情を適切に理解することが大切です。他者の感情はどのように基本的な傾向にあるのか、その変化や推移を予測することで、失敗を糧に大きな成功相手を導けるのです。
失敗やミスを「ダメだった」という負の結果に留めておかないことは、相手の感情を理解するうえでの助けとなります。
領域④:人間関係の適切な管理
4つ目の領域は「人間関係の適切な管理」です。つまり、自分と相手が求める結果を得るために、慎重に感情を管理して行動につなげる能力です。
理解できた感情も、調整や操作して最適化できなければ意味がありません。その点、優秀なリーダーは自分や他人の感情をうまく調整し、共感を促すのに秀でています。
EQリーダーシップの6つのスタイル
リーダーシップ論にはさまざまなコンセプトが存在しますが、最近重要視されている考え方は「個人の資質だけでなく、他者や環境との関係性により変化する」というものです。
そこで、ここではEQリーダーシップのスタイルを6つに分類し、状況に応じた適切なリーダーシップのあり方をお伝えしていきましょう。
スタイル①:ビジョン型
ビジョン型とは、「方向性を示し、部下の感情をポジティブな方向に導くことで、組織全体を変化させるリーダーシップ」です。
チーム全体が同じ目標に向かって切磋琢磨しているという自覚から、組織としてのコミットメントが生まれます。
スタイル②:コーチ型
コーチ型とは「部下が自分の強みや弱みを自覚するまでの過程を、対話を通して導き、行動目標を設定する手助けをするリーダーシップ」です。
スタイル③:関係重視型
関係重視型とは「業務の目標を達成するよりも、部下の感情面を重視したリーダーシップ」です。メンバー一人ひとりの満足度を上げ、チーム内の共鳴を導き出すことで、組織の結束を強められます。
スタイル④:民主型
民主型とは「1on1の対話やミーティングに時間をかけて社員の話に耳を傾けることで、集団の方向性を決めるリーダーシップ」です。
メンバーの悩みに寄り添うだけでなく、リーダー自身が方向性を決めあぐねている場合にも効力を発揮します。
スタイル⑤:ベースセッター型
ベースセッター型とは「リーダー自身が高いレベルのパフォーマンスを実際に背中で語ることで、部下にもそのレベルのパフォーマンスを促すリーダーシップ」です。
メンバー全員の能力とモチベーションが高いときにとくに有効と言えます。
スタイル⑥:強制型
強制型とは「部下やチームメンバーに対して、一方的に命令して従うことを要求するリーダーシップ」です。
通常の業務でこのようなコミュニケーションをおこなうと、機能不全を起こす可能性がありますが、機器的な状況や早急な対応が必要なケースでは効果的にはたらくことがあります。
EQリーダーシップにおける3つのメリット
EQリーダーシップには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、EQリーダーシップが組織にもたらす代表的なメリットについて解説していきます。
メリット①:チームパフォーマンスの成果が向上する
EQリーダーシップは、単に他者とコミュニケーション取ることではありません。結果を出すためのコミュニケーションを取ることを主眼としているからです。
たとえば、ビジネスにおいて、リーダーが部下とコミュニケーションを深める目的は、部下と友だちのように仲良くなるのではないでしょう。したがって、経営戦略をどのように実行して成功に導くか、その目的を達成するために社員にどう動いてもらうかという視点が必要です。
結果を出せるコミュニケーションを取ることは、結果としてチームおパフォーマンスの向上につながります。経済的な結果が出ることにより、ビジネスの経済価値や投資対利益率が向上するだけでなく、経営陣の離職率の減少にも寄与するのです。
メリット②:集団へのポジティブな雰囲気の醸成する
EQリーダーシップは多様性を活かせるため、闘争や葛藤がありながらも、集団をポジティブな雰囲気のなか導くことが可能です。日本のリーダーは、多様性を活かすのに慣れていないなかったり、仲間と忖度や雰囲気などの曖昧な価値観のすり合わせで仕事をしたりすることが多い傾向にあります。
この特徴は国内で完結するビジネスでは有効にはたらくかもしれません。しかし、グローバル化が進む国際社会では通用しない可能性があります。
したがって、今後の日本は多様性を受け入れ、議論を交わすことを恐れずにビジネスを進めることが求められると考えられます。単一的な価値観を常識とせず、多様性やぶつかり合いをポジティブに変換できるEQリーダーシップは、集団を時代に即したあり方なのです。
メリット③:チームメンバーのやる気を最大限に引き出せる
EQリーダーシップのタイプによっては、自律性をもった人材の育成につながります。企業のコンプライアンスに沿いながら、前に進む自律性を養うことは、容易なことではありません。
しかし、EQリーダーシップをもってすれば、部下やスタッフを優れた直感力やスピード感のある人材に育成し、そのノウハウを次に継承していけるからです。
EQリーダーシップを学べる本
EQリーダーシップを学べる本はいくつかありますが、とくにおすすめの本が『EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』です。
画像引用元:Amazon
『EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』は、EQリーダーシップの提唱者であるダニエル・ゴールマンのベストセラー『Primal Leadership』を日本語版です。本書では、アメリカの企業幹部(3,800人)への調査結果をベースに、ビジネスで成功した人たちが、どのように感情を利用して組織を成功に導いたのかが考察されています。
本書の実例には多様性があり、「自己管理」「社会認識」「人間関係」などの観点から、「優れたリーダーになるにはどうしたら良いか」「リーダーを育てるにはどうしたら良いか」といったポイントを具体的かつ実践的に理解することが可能です。
大切なことは、素晴らしい企業戦略ではなく、目の前の人間関係を誠実に向き合うことだと認識できる1冊です。集団の規模や種類を問わず、リーダーシップを学びたい人にぜひ読んで欲しい内容です。
まとめ
EQリーダーシップについて、基本的な理念やリーダーのスタイル、メリットを紹介してきました。要点は次のとおりです。
- EQリーダーシップ理論には、実務や体制の向上よりもグループメンバーの感情へのはたらきかけを重視する特徴がある。
- 上司が部下の感情を正しく方向付けることが経営運営をより良い方向に導ける。
- リーダーシップ理論は、実践的な学びを通して、後天的に習得できる。
EQリーダーシップは、ダイバーシティーが重要視される日本社会においてますます重要視されるであろう、リーダーのあり方です。本記事を、EQやリーダーシップ論の理解にぜひ役立ててみてください。