EQ(Emotional Intelligence Quotient)は、感情を能力として位置付けながらチームマネジメントにおけるコーチング場面で応用されています。しかし、実際にどのようにEQをコーチングに活かせば良いかわからない人も多いものです。
そこで、今回はEQを活用したコーチングについて、メンバーとの信頼関係やコーチ自らが実践できるコーチング法も交えて解説します。
目次
EQを活用したコーチングとは
まずは、EQを活用したコーチングについて、EQの4つの能力とリーダーシップ論を交えて紹介していきます。
EQの4つの構成要素
EQは主に次の4つの能力で構成されています。
- 感情の識別する力
- 感情を利用する力
- 感情を理解する力
- 感情をコントロールする力
4つの能力は独立して存在するのではなく、相互に影響しあっています。EQの能力を高めるには、4つの構成要素をバランスよく高める姿勢が重要です。
EQにおける「コーチ型リーダーシップ」とは
コーチ型リーダーシップとは、コーチ自身やチームメンバーとの対話によって目標の達成を目指すコミュニケーション技術です。従来の個人の強力なリーダーシップのスキルに加えて、コーチングの技術を身に付けたリーダーである点が特徴的です。
現代のビジネスシーンでは、経営者や管理者の強力なリーダーシップだけでは、継続的なイノベーションの創出が難しい時代となりました。その点、コーチング型のリーダーシップはメンバー全員がリーダーシップを発揮できるため、個々の主体性を醸成させながらチームメンバーを導くことが可能です。
コーチングにおける信頼関係の重要性
コーチ型のリーダーシップをより良く活かすには、リーダー自身のEQの高い見識と体現力が必要です。
『EQコーチングのスキル〜感情と行動に働きかける』は、コーチング場面でのメンバーとの信頼関係に関する著書です。この本の著者はコーチングスキルで成果を上げるには、まずメンバーとコーチとの信頼関係がないと意味がないと指摘しています。なぜなら、コーチングにしても、ビジネスにしても、すべての起点は「信頼関係」であり、「スキルの有無」ではないからです。
例えば、いくら高いスキルのあるコーチからの教えでも、メンバーがそのコーチに対して不信感を持っていればそのコーチングは効果を発揮しません。つまり、EQを活用したコーチングを実施する際にも、テクニックにばかり注力せず、まずはメンバーとの信頼関係を構築するためにEQをどう活かせるかに重点を当てることが大切なのです。
チームメンバーと信頼関係を築く3つのポイント
では、どうやったらメンバーとの信頼関係は構築できるのでしょうか?代表的な3つのポイントをご紹介します。
ポイント①:相手への配慮
「相手への配慮」を意識すると、信頼関係を構築しやすくなります。例えば、次のような配慮をすると、メンバーとの関係を強めることが可能です。
評価せずにまずは話を聴く
話をよく聴くリーダーはタスク指向(経営や業績を重視する考え方)ではなく、人間指向(関係性や感情を重視する考え方)です。
例えば、自分の準拠枠で判断しない人は傾聴力のあるリーダーと言われています。傾聴によって生じる変化への恐怖は、多くの場合リーダーの認知的不協和(自分の認識との矛盾)が原因です。判断や評価を脇において、ただ話を聴く時間に集中できると、より良い聴き手として質の高い質問が可能です。
毎朝メンバーの状況を確認する
メンバーに配慮できるリーダーは、指示の出し方も的確です。毎朝メンバーの状況を確認し、業務進行表で仕事内容を共有します。こまめに質問し、メンバーと目線をあわせてコミュニケーションを取るため、信頼関係も構築しやすくなります。
頻繁にフィードバックする
頻繁にフィードバックをすると、「自分の仕事について見てくれている」とメンバーが感じやすくなるため、メンバーとの信頼関係の構築にも寄与します。
フィードバックは、何か問題が起きた際だけでなく、パフォーマンスの評価として実施すると効果的です。ネガティブな面だけでなく、ポジティブな面についても伝え返すことで、メンバー自身が自分の強みを認識できるようになります。
ポイント②:誠実さを示す
「誠実さ」は曖昧な概念なので、そのように誠実さを示せるのか悩む方も多いでしょう。誠実さを示すうえで効果的な方法を2つご紹介します。
約束を守る
相手との約束をしっかり覚えていたり、期日を守ってくれたりすると、メンバーから誠実なコーチだと認識してもらいやすくなります。もし約束を守れなかったとしても、後から何らかの埋め合わせや、誠実な態度で対応できれば、信頼を大きく損ねる事態は避けられるでしょう。
素直に話す
自分の間違いや弱さなども素直に話してくれると、相手から信頼してもらえるきっかけになる場合があります。メンバーにとっては、綺麗ごとばかりの言葉は心に響かない可能性があるため、あえてネガティブな面をさらけ出せれば、メンバーとの距離をグッと近づけることが可能です。
メンバーのお手本になる
コーチ自身にとって不可能な目標や理念を指し示しても、メンバーにとっては「画に描いた餅」でしかありません。他者ばかりに能力を求めると、メンバーから逆に反感を持たれる原因となり得ます。
まずは、コーチ自身がメンバーのお手本となることが重要です。
ポイント③:公平性を持つ
信頼関係はメンバーの帰属意識にも起因するため、何よりリーダーがメンバー全員に公平性を持って接する姿勢が重要です。公平性を持つうえでのポイントについて3つご紹介します。
メンバーを見下さない
コーチをする側になると、「教えてやっている」という意識になりがちです。しかし、コーチとしての傲慢さはすぐにメンバーに察知されます。
何よりもメンバーを見下さないこと、対等な目線で接する姿勢が信頼関係を構築する上では重要です。
1人を特別扱いしない
個々の能力ではなく個人の個性を特別視する姿勢は、とりわけ信頼関係を損ねる原因となります。コーチには個々の成果を認める務めがあるからです。
チーム間での友情がコーチングの原動力にならないよう、成果や功績を重視してチーム全体で交流するように心がけましょう。
公平に情報共有する
共有しても良い情報は、チーム間で公平に共有するようにしましょう。やむを得ない理由がない限り、一部のメンバーだけでの情報共有は、避けましょう。
もし自分や自分の帰属するチームだけ情報を得ていないとわかったら、メンバーの帰属意識や信頼性を失いかねません。
コーチ自身が成長するためにできること
コーチ自身が成長するために何ができるのでしょうか?代表的なものを2つ紹介します。
ファクト分析
コーチとしての自己分析をするには、「ファクト分析」が有用です。
ファクト分析とはありのままの事実を書き出し、原因と結果による対策を考える自己分析の手法です。ファクト分析をすると、状況や個人に適した解決方法がクリアになり、自己効力を養えます。
ファクト分析の方法
ファクト分析をする際には、まずは次の項目を文章にして書き出しましょう。
- 分析する場面
- 場面で生じたありのままの事象
- 出来事が生じた原因
- 出来事によって受けた影響
- 対策
- 対策を実践の改善点
これらの項目を洗い出せると、事実を客観的に分析できるので、自分を見つめ直すきっかけとなります。また、失敗への恐怖が減り、新しい取り組みにもチャレンジしやすくなるでしょう。
ファクト分析のポイント
ファクト分析のポイントは主に次のとおりです。
- 現状をありのまま書き出す
- 結果を端的に記す
- なぜ出来事が生じたか原因を深く考察する
- 可能なら2つ以上の対策を考える
自分の失敗はできれば直視したくないものなので、プライドや見栄で現実を歪めて振り返る可能性もあります。よって、利害関係のない第三者からアドバイスを受けながら事実を分析するのも効果的です。
事実に対して客観的に受け止められるとコーチ自身のコーチング力が高まり、メンバーにとって本当の意味でのメリットになります。
EQにおける4つの能力ごとのコーチング法
先述したとおり、EQには4つの能力があります。ここでは、EQのそれぞれの能力に対応したコーチング方法について解説していきます。
「感情の知覚・表出力」のコーチング法
感情の知覚・表出力の代表的なコーチング法は次のとおりです。
- 行動や感情を書き出させる
- ネガティブな感情を受け止める
行動や感情を可視化させる作業は、コーチ自身の自己分析だけでなく、当然コーチングを受ける側の感情の把握にも有効です。ファクト分析の項目やポイントは、コーチングそのものにも応用できます。
しかし、一般的にネガティブな感情は排除されるべきだという認識強く、なかなか自分の弱さや苦しみを吐き出せない場合もあるでしょう。
よって、「ネガティブな感情は悪いものではない」という認識をコーチ自身が持ち、コーチングを受ける側が安心して感情を吐出できるようにするとEQを高める基盤となります。
「感情の同化力」のコーチング法
感情の同化力を高める際には、人間関係を通してだけでなく、小説や映画などの芸術を通して高めることが可能です。例えば、小説を読んで次のような事柄を想像してみましょう。
- 小説を通して自分は何を感じたか
- 自分が小説の登場人物だったらどうするか
- 小説の中でどうして登場人物はこのような言動をしたのか
芸術から得た事柄を自分の中に取り込んで考える習慣を持つと、日常生活における感情の利用にも役立ちます。コーチングとしては、対象者とのディスカッションを通して感性を磨くサポートが可能です。
「感情の理解力」のコーチング法
感情の理解力とは、「自分がどのような時にどう感じるのか、そしてその感情がどのように変化するのかといった自分の感情のクセを理解する力」です。コーチングとしては次のような働きかけが可能です。
- 「感情の知覚・表出」で書き出した感情を振り返ってみる
- 自分の感情の変化を追ってみる
EQに特化した能力を理解したい場合は、EQ測定を専門にしたテストを利用するのが効果的です。感情を客観的に数値化できると、自分の感情がどんな場合に生じて、どう変化するのかを理解できます。対象者の感情の変化をコーチが時間を追って確認したり、客観的な立場からクセを分析したりしてサポートも可能です。
「感情の管理・調整力」のコーチング法
「感情の管理・調整力」は、上記の力を総合的に体得したうえで活用できる力です。コーチングとしては、感情的になった場合の感情の整理をサポートできます。そして感情の整理には「傾聴」が有効です。傾聴する際には「どうしてそのような感情になったのか」を、第三者の立場から質問してみましょう。
例えば、仕事の同僚にカッとなってしまった人に対して、次のような質問を投げかけられます。
- 相手に伝えたかった本当に重要な内容はどんなことですか?
- どのような思いで相手と接しましたか?
- 相手にどのようになって欲しいですか?
質問に対して相手が返答する中で、相手が感情を整理できますし、コーチ側も相手の感情に共感しやすくなります。
ただし、感情的になった直後にこのような質問をしても、客観的に自分を見つめ直せません。ゆえに、一時的に時間をおいてから感情の真意を導き出せるような働きかけをしてみてください。
まとめ
EQを活用したコーチングについて、メンバーとの信頼関係やコーチ自らができる施策について解説しました。要点は次の通りです。
- EQを活かしたコーチングはまずコーチとメンバーとの信頼関係がポイント
- メンバーとの信頼関係の構築には「相手への配慮」「コーチの誠実生」「メンバーへの公平性」が重要
- 良いコーチングには、まずコーチ自身の自己分析が大切
EQを生かしたコーチングは何よりもメンバーとの信頼関係が大切です。本文で紹介した内容を、EQを活用したコーチングにぜひお役立てください。