人材育成やチームワークなどを管理するうえで、EQの重要性が注目を集めています。しかし、実際の具体的なアプローチ方法について悩んでいる方は多いものです。
そこで、本記事はどのような対策をすればEQを高められるのかについて、感覚能力としてのEQの観点から解説します。
目次
EQとは
EQ(Emotional Intelligence Quotient)とは、アメリカの心理学者であるメイヤー氏とサロベイ氏による感情に関する知能です。1990年代にダニエル・ゴールマン氏によって書かれた、『EQ〜心の知能指数』という書籍が世界的なベストセラーになったことをきっかけとし、EQの考え方や重要性が世界に広く知られるようになりました。
EQには、主に次の3つの知性が内包されています。
- 心内知性(self-concept):自分自身の心理状態を把握し、コントロールする知性
- 対人関係知性(social-skill):相手に適切かつ効率的に自分の考えを伝える知性
- モニタリング能力(monitoring-ability):相手の心理状態を把握し、自分と相手との間合いを敏感に察知する知性
つまり、EQとは「自分と相手の感情を適切に把握し、うまく表出したりコントロールしたりする力」とも言い換えられます。
EQを構成する4つの能力
EQを感情の能力として捉えた場合、次の4つの能力に分類可能です。
能力①:感情を知覚・表出する力
感情を人間関係でうまく利用するには、前提として感情を知覚したり、表現したりするセンサーが必要です。ゆえに、この段階における能力は、EQにおいて最も基本かつ重要な力となります。
能力②:感情を同化する力
「同化」とは、感情をうまく自分の中に取り込んで利用する力とも言い換えられます。この力は、人間関係を通してだけでなく、絵画や音楽など芸術作品を通しての情動も含まれます。
小説の中の主人公になりきったり、新しいインスピレーションを受けたりするのは、この段階における能力に影響されると言えるでしょう。
能力③:感情を理解する力
感情を適切に理解するには、前段階として感情の知覚や表出、同化が正しくなされる必要があります。感情の理解は、EQの中でも最もIQ的な要素が高い能力です。
感情を理解するにはまず「感情の特性を理解」し、次に「感情と状況を結び付ける」必要があります。つまり、感情の特性の認知が重要なのです。
能力④:感情を管理・調整する力
「感情の同化」で創出された感情を「感情の理解」で導き出した行動へ適正な形で調整したり操作したりする能力です。
この「感情の管理や調整」は、EQにおいて最も高水準のレベルとされており、EQの総合的な力が求められる領域と言えます。
EQとIQの違い
EQとIQは、主に次の点において相違します。
- EQの測定対象は「感情」であるのに対し、IQの測定対象は「知能」
- EQは「後天的に開発可能な能力」だが、IQは「遺伝的な要素が大きい先天性的な特徴」がある
- EQはIQよりも「ビジネスや人生における成功率や満足率」に寄与する
EQとIQは、どちらも重要な能力です。2つの知性のバランスの取れた人材であるほど、ビジネス社会で成功しやすいと言われています。
ただ、EQの能力は後天的であり大人になってからもビジネスに活かしやすい点が、近年IQよりも注目を集めている背景として考えられます。
EQの測定方法
EQを高めるには、まず現在のEQを正しく測定して、EQを認識することが重要です。EQの測定する方法は主に次のようなテストがあげられます。
- 自己報告書テスト:複数の質問項目について主観的に診断や評価をさせる
- 観察者評定テスト:自己報告テストと同類の質問を親や上司などの第三者に診断や評価させる
- パフォーマンステスト:人物の表情や短い物語からどのような感情を抱くか想像させ、あらかじめ決められた得点基準をもとに客観的に評価する
感情知性をどのように捉えるか、研究者によって感情の尺度は異なる傾向にあります。しかし、EQの構造において、「自己の感情に関する側面」「他者の感情に関する側面」「自己と他者との相互作用や状況に関する側面」の3領域は、どのテストも共通しています。
EQが低い人の持つ特徴
では、EQが低い人の持つ代表的な特徴について5つ解説します。EQを組織運営に活用するうえでの指標として活用してみてください。
感情的になりやすい
EQが低いと感情のコントロールや表現がうまくできないため、結果的に喜怒哀楽をそのまま相手にぶつけてしまう傾向にあります。特に、悲しみや怒りなどネガティブな感情については、周囲に強く表現してしまうと「情緒が安定していない」「一緒にいると精神的に疲れてしまう」などと思われかねません。
自己中心的な言動が多い
EQが低いと自分の欲求や感情を抑えられなくなるため、自分勝手な言動が多くなりがちです。自分中心に物事を進めようとし、うまくいかないと周りにイライラをぶつけてしまうこともあります。
結果として、周囲から「自分の都合しか考えない人」「傲慢な人」というレッテルを貼られる可能性があります。
他人を許せない
EQが低いと他者のマイナス面について意固地になり、失敗に寛容になれないため、他人をなかなか許せません。幼いうちは友人と意見がぶつかり合っても仲直りすることで関係性を深められた人でも、仲直りができないまま溝を作ってしまうケースもあるのです。
他人を傷つけてしまう
先述した通り、EQが低いと感情を直接的にぶつけたり、相手をなかなか許せなかったりします。その結果、他人を精神的に傷つけてしまうこともあります。相手の気持ちを推測して言動できないため、自分の思うままに言葉を発したり行動したりします。
自尊心が高い
EQが低い人は、自分の考えに自信を持っているため、プライドが高い傾向にあります。よって、自分の意見を否定されると不機嫌になったり、周囲の考えをよそに自我を押し通したりするケースもあるでしょう。
また、周囲よりも自分が優れているという認識が強いため、「周囲をバカにしてくる人」というイメージを周囲に持たれる恐れがあります。
EQが低い原因
EQが低いことには原因があります。ここでは、EQのテストで指数が低く出てしまう代表的な要因について紹介します。
原因①:性格特性
性格的特性としてのEQは「生まれ持った性格」としての要素が大きいため、後天的に改善することが難しい特徴があります。人それぞれの性格が違うように、生まれながらにして他人を思いやる優しい心を持った人もいれば、つい自分中心に物事を考えてしまう人もいるからです。
性格特性としてのEQは不可変的な要素ですが、自分の感情のクセを認識しているかどうかは大きく違います。まずは自分の至らない部分を把握し、ネガティブな局面で自分の感情のクセを自覚できるようになりましょう。
原因②:許容量の超過
自分の心にゆとりがないと、ポテンシャルがあってもなかなか本来のEQを発揮できません。自分の心を保つのに精一杯で、他人への気遣いができなくなったり、自分の感情のコントロールが効かなくなったりします。精神的に追い詰められて、疲労が蓄積していると、周囲や物事に対して投げやりなってしまうのは誰でもあり得ることです。
よって、まずは「自分が受け入れられる物事の限度」を自覚できるようになりましょう。そのうえで、「適宜休む」「他人に助けを借りる」など、感情をコントロールするための対策へと踏み出せるようになります。
原因③:コンプレックス
自覚の有無にかかわらず、コンプレックスは人間の思考パターンに大きな影響を与えます。
例えば、他人から容姿をからかわれた過去がコンプレックスになっている場合、大人になってからも他人からの容姿のジョークを受け入れられなる可能性があるでしょう。つまり、コンプレックスから自分を守るために、あえてEQを低めて自分を強く見せているのです。
原因④:家庭環境
育ってきた家庭環境はEQに大きな影響を与えます。
例えば、兄弟姉妹の間の力関係や、親との関係性などによってもEQの能力には差が生じるとされています。しかし、子どもの頃に辛い状況にあったとしても、適切な対策を取れば、自分の感情を理解してEQを後天的に高めることは十分に可能です。
EQが高いと得られるメリット
ここまで、EQのマイナス面について解説してきましたが、EQは適切な導き方ができると、組織や個人にとってさまざまなメリットがあります。ここからは、EQが高いと得られる代表的なメリットについて4つ紹介します。
行動特性の向上
EQは行動や感情と深いつながりがあります。ゆえに、EQを高めると感情面だけでなく、行動面でのポジティブな変化が期待できます。
具体的な行動特性は、EQ測定によって明確化できます。例えば、どのような感情によってどういう行動があるかといった行動と感情との関連づけや、EQを高めたことによりどう行動面で変化がみられたかも数値として把握できるのです。
EQをベースとした考え方を人材育成の場で活用すると、個人から組織単位までの感情を認識し、コントロールすることで、組織全体の生産性を高められます。
能力の最大化
EQの能力が高まると、メンバー一人ひとりの能力の最大化が可能です。例えば、実際にEQを組織運営に導入したところ、次のような能力への影響が明らかになりました。
- 結果を出すために物事をやり抜く達成意欲に関する能力
- 良好で強固な人間関係を構築する対人関係関する能力
- エネルギーや機能を高いレベルで維持する能力
- よりよく生きる意識を持って満足度の高い人生を創り出す能力
EQは個人を単位に測定しますが、個人の能力を伸ばせると結果として組織にも好影響をもたらします。
ダイバーシティーの尊重
ダイバーシティーとは、英語で「多様性」を意味する言葉です。人々の価値観や見た目など、さまざまな違いを受け入れるという意味で用いられます。
EQはメンバーの感情スタイルを調査し、それぞれの強みや弱みを把握するため、組織における人材配置の際の適材適所やダイバーシティーの尊重に役立てることが可能です。グループ間での価値観の偏りや能力を活かせない部署への人材配置などを防ぎ、バランスの良い組織形成に寄与します。
ポジティブ感情の育成
「喜び」「信頼」「予期」といった感情は、組織を形作るうえで必要不可欠な感情です。これらのポジティブな感情が組織全体のモチベーションを上げ、より良い方向に導く原動力となります。
EQを高めることで、これらのポジティブ感情を組織全体で醸成し、「怒り」や「悲しみ」などのネガティブ感情を前向きに取り入れることが可能です。
EQが低い場合に取れる対策法
続いては、低いEQに対する対策方として、EQの4つの能力と照らし合わせながら解説します。
対策①:「感情を知覚・表出する力」が低い場合
感情を知覚・表出する力を伸ばす場合、自分が毎日感じた事象を文字にして可視化すると効果的です。感情を可視化する方法として、代表的なものに「感情日記」があります。
感情日記とは、その名の通り、毎日の感情を日記のように記録づけする行為のことです。ご自身の感情を行動や出来事と紐付けられると、自然と自分が周囲にむけていた感情の知覚が可能です。
感情日記をつける際には、次のようなポイントがあります。
- 感情が生起した理由を一緒に記録する
- 感情が原因で起こった行動や出来事があれば記録する
- その感情がどのくらいの強さだったかをパーセンテージで数値化する
感情日記を毎日継続できるか不安な人は、感覚的なスタンプで簡単に記録が付けられるアプリもあります。ご自身の続けやすい方法で感情を把握し、可視化してみてください。
対策②:「感情を同化する力」が低い場合
感情を同化する力を伸ばす場合、外部からの情報対して、まずは自分なりの解釈や表現をしてみましょう。
感情の同化は、人間関係を通してだけでなく、芸術に触れた際にも利用できます。本や映画、音楽など、ご自身が関わりやすい媒体から感性への刺激が可能です。
- 小説を読んで、自分だったらどうするか空想を膨らませてみる
- 音楽を聴きながらイメージした情景を文章や絵で表現してみる
- 映画を鑑賞してみた感想を、第三者と語りあったりレビュー記事として投稿してみたりする
ポイントは、自分なりの表現や解釈を評価しないことです。評価してしまうと、自由に自分の感じた事象を取り込めなくなってしまうからです。
教師や親からあらゆる事象を否定され続けた人にとっては、自分の内面に感性を取り込むのが難しい場合もあるでしょう。自分の表現や感情を誰かに見せるのに抵抗がある方は、自分一人でできる取り組みからチャレンジしてみてください。
対策③:「感情を理解する力」が低い場合
感情を理解する力は、共感力にも通じる能力です。共感力を伸ばしたい場合は、次のような方法があります。
- 他者が話す内容の状況を思い浮かべる
- 自分だったらどうするか想像してみる
- 自分3割、相手7割で聴き手に徹する
共感力を高めるには、まず自分以外の物事への想像力を膨らませてみましょう。「自分だったらどうするか」「相手はどのような状況だったのか」「どうして相手はこう感じたのか」などを思い浮かべながら話を聴いてみてください。
自分から会話を切り開くのが好きな人も、少し我慢して聴き手にまわると、次第に相手に感情移入できます。自分の価値観や言いたいことはいったん脇に置いて置いて、相手の言った内容をひたすら頭の中で繰り返すことも、共感力を高めるうえで有効です。
対策④:「感情を管理・調整する力」が低い場合
正しく感情を知覚・表出し、同化し、理解できていなければ適切な方向で管理・調整ができません。ゆえに、感情を管理・調整する力を伸ばしたい場合は、先述した3つの力が備わっていることが前提です。
例えば、次のような方法で感情は管理・調整できます。
- コントロールしたい感情が生じた際のルールを決めておく
- 場所を変えたり時間を空けたりする
- マイナスイメージを調整する
- 体を動かしたり姿勢を変えたりする
- 相手や第三者の立場に立つ
- 感謝リストを作る
しかし、いきなりすべてを実行するのはハードルが高いので、まずはご自身がやりやすいものを選んで実行してみてください。感情のコントロールができると、変化や成長が感じられ、ビジネスや日常生活における人間関係で高いパフォーマンスの発揮にもつながります。
「ネガティブな感情」は決して悪いことばかりではありません。しかし、感情に飲み込まれるのを回避できると、他者からの信頼性アップやマイナス行動を避けることが可能です。
まとめ
EQを高めるための対策について、感覚能力としてのEQの観点から解説しました。要点は次の通りです。
- EQを高める対策としてまずは個々人のEQを測定し、客観的なEQ指標の把握が重要
- EQの対策は個人だけでなく、組織としてもサポート可能
- 人格特性としてのEQの観点はなく、感情能力の観点からEQ対策が可能
EQの構成能力に応じた対策をすると、自分の高めたい領域に即した能力へのアプローチが可能です。最初は難しいと感じる対策も、少しずつ実践すれば効果を感じられるでしょう。
今回紹介した内容を、日常生活やビジネスでのEQの対策にぜひお役立てください。