学校や運転免許状などあらゆるところ重視される認知能力ですが、具体的にどのような能力を指すのでしょうか?
この記事では、認知能力と非認知能力の違いや、非認知能力の重要性などについて解説します。どちらも子供の教育に不可欠な概念ですので、ぜひ参考にしてください。
目次
認知能力とは
認知能力とは、知能テストで数値化できる能力のことです。テストの点数を評価する進学校や大学受験などで重視されています。
空間把握能力や計算能力、記憶力など、知的活動に関する能力が大半です。
非認知能力とは
非認知能力とは、知的好奇心や自己規律、思いやりといった精神的能力のことです。認知能力以外の能力であり、社会情動的スキルとも呼ばれています。
具体的には、次のような能力が該当します。
- 意欲、チャレンジ精神
- 問題解決能力
- コミュニケーション能力
- 他人への思いやり
- 創造性
- 自己肯定力
- 自己規律性
- 精神的な回復力
認知能力との違い
非認知能力は個人の内面をつかさどる能力ですので、認知能力のようにテストで数値化できません。評価基準が曖昧であるため、子供同士で比較したり競わせたりすることも困難です。
一言で説明するのが難しい概念ですが、「夢や目標を持ち、他者と粘り強く人生を歩める能力」ともいえます。「認知能力以外のスキル」と理解するのが一番わかりやすいでしょう。
非認知能力は人格育成に不可欠
非認知能力は、人間の人格育成に役立つと言われています。その根拠となるのが、1960年代に行われたペリー就学前計画です。
ペリー就学前計画は、非認知能力を向上させる幼児教育を施した被験者を、40歳になるまで観察した実験です。これにより、幼児期に適切な教育を受けた被験者は、一般人と比べ、知能や経済力などの面で優れていることがわかりました。現在では、幼児期の非認知能力教育が、人格育成ひいては人生に良い影響をもたらすと言われています。
また、シカゴ大学の人体学者スキャモンは、人間の脳は6歳までに9割近くが構築されると発表しています。つまり、脳の構成は幼児から小学校にいくまでにほとんどが完成するということです。そのため幼児期の教育は、子供の人生にとってより重要になります。
世界でも非認知能力が注目を集めている
社会不安や災害などによって人とのつながりが必要になった現代において、非認知能力の重要性が世界的に高まっています。学歴至上主義による認知能力向上が必ずしも人生を幸福にするのではないという事実も、大きな要因の一つです。
非認知能力を育むことが大切な理由
非認知能力は、どのような点が優れているのでしょうか?ここでは、非認知能力が大切な理由を解説します。
自分を肯定して好きになれる
非認知能力を育むと、自分を無条件に肯定できるようになります。
自己肯定力が高い子どもは強固な自信を持ちやすく、困難に陥っても冷静でいられることが多いです。「たとえ失敗しても、家族に愛されていることは変わらない」と理解しているため、物事にも積極的にチャレンジします。
また、周りの人に愛されることで、お返しをしなければならないという返報性の原理が働き、他人に思いやりを持てるようになります。
逆に、自己肯定力が低い子どもは物事に対する意欲が乏しくなりがちで、チャレンジ精神も育ちにくいと言われています。何かをやりたいと思っても「どうせ失敗する」と無意識に考え、実際その通り失敗します。
人間は「自分は周りの人に愛されている」という実感がないと、何かにチャレンジする意欲が湧きません。そのときに必要な行動をしないため、人生の失敗も多くなります。そのため、認知能力を育てて、自己肯定力アップさせることが重要なのです。
自分の感情をコントロールできる
非認知能力を育んだ子供は、自分の感情をコントロールするようになります。
自分の心を大切するため、感情の起伏も起きにくいです。「嫌だな」「難しいな」と思うことがあっても、冷静に自分の心と向き合い、落ち着いて問題に対処できます。自分の感情を深く理解したうえで行動するため、失敗しても気持ちを切り替えやすいです。
逆に、自分の感情をコントロールできない子どもは、我慢することが多くなり、困難に陥っても冷静な対処ができません。感情を吐き出すところがないためストレスが溜まりやすく、心身に不調をきたすことも多いです。ふとしたときに泣き出したり怒ったりするため、周りにも悪い影響を与えます。
何かにチャレンジし困難に陥ったときに、途中で投げ出したり周りを傷つけたり子どもは、感情に振り回されている可能性が高いです。大人になって困らないように、幼少期のうちに改善してあげましょう。
目標に向けて継続的に努力できる
自分の好きなものに対して集中力を発揮する力も、非認知能力の一つです。子供は自分が興味のある分野に対しては、大人が思ってる以上に試行錯誤をめぐらし目標を達成しようとします。
問題やトラブルに遭遇しても、「なぜできないんだろう?」と疑問を投げかけ、自分なりの解決法を見つけてしまいます。いずれも、非認知能力が成せる技です。
他人と適切なコミュニケーションを取れる
他人と適切なコミュニケーションを取る能力も、重要な非認知能力の一つです。
人間は、他人とコミュニケーションを取らなければ生きていけません。幼稚園・小学校・中学校・高校・大学と進むにつれ、周りの人たちと協力する場面も増えてきますので、自分の感情を理解し、他者を思いやって行動することが求められます。
周りに迎合するだけでなく、ときには自分の意見を発信し、リーダーシップを取ることも必要になるでしょう。他人と協力して物事に取り組むには、自己を肯定したり他人を思いやったりする能力が不可欠です。
非認知能力を育むと、自己肯定力や感情をコントロールする能力が発達するため、他者との関係性も向上します。自分の感情に振り回されて、周りとの関係性を悪くすることもありません。
非認知能力を育む方法・ポイント
非認知能力は目で見えない部分が多いため、子供とのスキンシップを通して育む必要があります。
子供のありのままを受け入れる
親が子供のありのままを受け入れると、「自分はここにいてもいいんだ」という自覚が生まれ、自己肯定力がアップします。
何があっても自分を助けてくれる存在というのは、子供自信が自分を大切にする手助けにもなります。自分を大切にするとさまざまな物事に興味関心が湧くようになるため、チャレンジ精神を育む際にも効果的です。子供が何かやり始めたら応援してあげ、何か良いことをしたら褒めてあげましょう。
寂しそうにしていたら一緒に遊んであげてください。子供の状態をありのままに受け入れ、親としてできることを最大限してあげることが大切です。子供の非認知能力は、親からの無償の愛を受けることで大きく向上します。
遊びやお手伝いを積極的に取り入れる
日常生活の中に遊びやお手伝いを取り入れ、一人遊びの時間や他者と関わる機会を積極的に増やしましょう。
子どもは遊びを通して、主体性や工夫する力、他人と協力する喜びなどを学びます。同じ年頃の子と遊ぶと、他人と協力するためのさまざまなルールや思い通りにならないときの気持ちの切り替え方、他人を思いやる心などを理解できるでしょう。
小さい頃にたくさん遊んだ子供の方が、勉強や部活などにも積極的になると言われていますので、遊びは幼児期にこそ取り入れることをおすすめします。お家での積み木遊びや、外での鬼ごっこなど何でも良いので、子供がおもしろいと感じ夢中になれる仕組みを作りましょう。
遊びだけでなく、お手伝いをしてもらうこともおすすめです。親がお手伝いの後に「ありがとう」という感謝のことばを伝えることで、自分の行動が役に立ったと感じ、自主性や責任感、自己肯定感などが成長していきます。片付けを手伝ってもらったり、ゴミ捨てを手伝ってもらったりすることは、親子間のスキンシップにもなるでしょう。
子供の自主性を尊重する
子供が何かをやってみたいという意思を表示した場合は、自主性を尊重し全力でサポートしましょう。大人の考え方や常識を優先し、頭ごなしに否定してはなりません。
子供は小さな興味関心から思考を分散させていき、大人でも驚くような知識を身につけていきます。電車の駅名や車両名を一言一句覚えたり、数学や漢字検定などで優れた成績を収めたりするのは、その一例です。知的好奇心を刺激された子供は、大人では考えもつかないような創造性を発揮します。
子供の自主性を尊重する際、特に注意したいのがサポートの範囲です。「子供が心配だから」といって、先回りして何でもやってあげるのは教育上良くありません。親と子供の気持ちは別々ですので、子供のためにやってあげたことが、子供にとっては不要なことも多いです。
不要なことを無理にやらせると、「お母さんに無理やり押し付けられた」と感じ、チャレンジ精神や意欲の低下につながります。子供のために何かやるのは親の気持ちとして理解できますが、子供が自主性をみせたときは静かに見守るようにしましょう。
本当に子供がダメなことをしたときは、ダメな理由をしっかり説明し、否定ではなく「提案」してあげてください。
認知能力の向上も行う
子供の教育では、非認知能力だけでなく認知能力を向上させることも大切です。
非認知能力は重要な能力ですが、だからといって認知能力が無駄というわけではありません。それどころか、非認知能力と認知能力をバランス良く向上させることがより重要だという意見もあります。
上述したペリー就学前計画は、非認知能力の重要性を証明した価値ある実験ですが、推測で断定している部分も多く、「認知能力は不要」と結論付けているわけでもありません。何が人生を幸福にし子供を幸せにするかはまだ解明できていないことが多く、非認知能力だけ伸ばせば良いと考えるのは早計です。
子どもとの対話を大切にする
親が子供との対話を大切にすることで、子供の発想力や想像力を豊かにできる可能性があります。
例えば、雲に興味を持った子供に、「すごいね」ということばをかけただけでは、ひと通り遊んだ後に、雲に対する興味もなくなってしまうでしょう。しかし、対話を通して子どもの知的好奇心を刺激できれば、雲の構造や仕組みに興味を持つようになるかもしれません。
他の友達に見せたいと感じれば、友達作りのきっかけにもなるでしょう。逆に、親が構造や仕組みを一方的に教えてしまうと、それ以降雲に対する興味もなくなる可能性があります。
親の問いかけやことばがけは、子供の経験や知識量に大きく影響します。このあたりは保護者による個人差が大きい部分ですので、幼稚園の先生や周りの人たちのアドバイスをもとに、少しずつ改善するのが良いでしょう。
幼児期以降も継続的なサポートを行う
非認知能力は日々変化する社会情勢に対応するための能力ですので、幼児期以降も継続的に伸ばしていく必要があります。幼児期は非認知能力を育むのに重要な時期であるというだけですので、小学校や中学校でも引き続きサポートを行いましょう。
非認知能力の育成には保護者の協力が不可欠
子供の非認知能力を育むには、保護者自身が非認知能力に関する知見を高めることが大切です。子供は親の言動や姿勢を見て育つため、これまで以上に保護者の資質や能力が問われるようになります。
最近は、保護者向けに園内研修を実施している幼稚園もあります。子供への接し方などがわからない場合は、参加してみると良いでしょう。
まとめ
認知能力と非認知能力は、人生を豊かにするために必要な能力です。認知能力は大学に進学したいときなどに必須ですし、非認知能力は目まぐるしく変化する社会情勢に対応するときに役立ちます。
どちらも重要なスキルですので、幼児期やそれ以降の教育でもしっかりと意識しましょう。