傾聴力とは、「人の話をしっかり聴くこと」です。しかし、「人の話」とは相手が発する字義通りの言葉面だけではありません。
ジェスチャーや目線、ささいな息遣いなど、さまざまな情報が言葉には含まれています。また、傾聴力の高さはEQの指数にも影響する重要なスキルです。
では、この傾聴力を伸ばすにはどのような方法があるのでしょうか?そこで本記事では、傾聴力とは何かについて、効果的な高め方やポイントなどを解説します。
目次
傾聴力とは
傾聴力(けいちょうりょく)とは、相手から発せられる言葉に我慢強く耳を傾け、会話に内包される感情を深く正確に受け止める力です。「きく」という行為は、実は3種類があり、それぞれの行為の意味は異なります。
- 訊く:相手の失敗やミスなどに対して、しっかりと理詰めて追い込む意味
- 聞く:BGMのように単に言葉として声を認識している意味
- 聴く:相手の話に集中して耳を傾けている意味
上記の3種類「きく」の中でも、「聴く」という行為は耳・目・心の3つを集中させる点が特徴的です。
ご自身で「コミュニケーション力が低い」と悩んでいる場合、本当は相手への集中力が足りないことが背景にあるのかもしれません。本当に相手だけに集中していれば相手の話を言葉以上に理解でき、場合によっては会話から相手の心理も読み解けるようになります。
傾聴力が人間関係にもたらすメリット
傾聴力はビジネス場面や日常生活においてより良い人間関係を構築するうえで多くのメリットをもたらします。例えば、ビジネス場面において上司が部下の話をしっかり聴いてくれた場合に考えられるメリットは次の通りです。
- 部下が仕事に対して高いモチベーションを維持できる
- 不安や悩みを早期の段階で共有できる
- 上司への信頼度がアップする
- 会社へのエンゲージメントが高まる
傾聴できるようになると、個人や組織全体の生産性がアップし、人間関係が良好になります。
傾聴と瞑想の共通点
「傾聴力は瞑想と同じように集中力が大切だ」という点が共通しています。そして、傾聴力を高めるには瞑想の実践も効果的です。
例えば、代表的な瞑想として「マインドフルネス」と呼ばれる方法があります。マインドフルネスは、過去や悩みに一切意識を向けることなく、雑念をサラサラと水に流すイメージで「今ここ」に意識を集中させておこなう瞑想です。
一般的な瞑想は、マインドフルネスと同様に、雑念への意識を除去し、あるがままの状態を感じる集中力を鍛えられます。
傾聴力とEQの関連性
続いて、傾聴力とEQの関連性について解説します。
EQとは
EQとは、Emotional Intelligence Quotientの略で、日本語で「感情知性」とも呼ばれている力です。EQが高いと自分や他人の感情を把握し、より良い表現をしたり適切なコントロールができたりします。
EQの能力を高めるには、次の4つのスキルが重要です。
- 自己認知スキル:自分の価値観や強みなどを的確に理解できる能力
- 社会認識スキル:他者の感情を適切に理解できる能力
- 自己管理スキル:表出すべき自分の感情を適切に管理できる能力
- 人間関係管理スキル:人間関係を適切に調整できる能力
この4つのスキルをバランス良く伸ばせると、人間関係や仕事において適切な形でEQを活かせるようになります。
EQにおける社会認識スキルとは
傾聴力はEQを構成する要素のうち、「社会認識スキル」に関連する能力です。社会認識スキルでは、「他者をどれくらい理解できているか」がポイントです。
ひたすら他者を観察すると効率的に社会認識スキルを身につけられます。しかし、そもそも他者を理解するには、自分を適切に理解していなければなりません。自分自身を知る能力が高い人は、他者を知る能力も自然と高くなるからです。
また、自分の感情を読み取る力がアップすると、他者の感情も読み取れるようになります。つまり、自分自身をよく知っていないと、他者への真の理解も不可能です。
よって、すべてのスキルの土台となる「自己認識スキル」が習得できたうえで、自分の周辺にいる人の非言語(言葉以外の要素; 仕草や表情、姿勢や声のトーンなど)を通して他者理解を進める必要があります。
EQが高い人は共感力も高い
共感力は傾聴力に必要な力です。そして、EQが高い人は共感力高い傾向にあります。先述したとおり、傾聴力はEQにおける社会認識スキルに分類され、共感力も他者理解に依拠する能力です。
他者理解は、自分の内側を見つめて分析する自己理解とは異なります。社会認識とは自分以外(外側)に目線を向けるからです。
つまり、社会認識力を高めるには他者の感情を読み取る力が必要であり、この能力が高い人は他者の立場になりきって物事を考えられます。結果として、他者との争いや派閥の闘争争いなどに巻き込まれにくく、日常生活やビジネスでもストレスを感じにくくなります。
傾聴力はEQの社会認識スキルに関連する
傾聴力は「他人の言葉を字義通りに聞く能力」とは違います。人から発せられる言葉は、その発話者すら自覚していない感情を内包している場合があるからです。よって、言葉通りに意味を追うのではなく、言葉の裏に隠れた真意までを理解する必要があります。
社会認識スキルの高い人の例として、「気が利く人」がよくあげられます。
例えば、気が利く人は食事をしていてグラスが空いているとすぐに気づいてドリンクを注文してくれたり、相手が取皿を必要にしている心情をすぐ察知してくれたりする人です。表情だけ見て、「何かあったの?大丈夫?」「どうしたの?」と気遣ってくれたり、声をかけたりしてくれる人も社会認識力が高いといえます。
つまり、他者がまだ言葉にしていない、もしくは言葉にしきれていない感情を咀嚼し、推察して理解する能力が高いのです。このように社会認識スキルが高い人は自分のことばかり考えず、周りがよく見えています。
社会認識スキルはコツをつかめば伸ばせる能力
EQに内包されるスキルは、後天的な訓練によって伸ばせる能力です。EQのスキルの一つである社会認識スキルも、コツを押さえれば高められます。
気が利く人や相手の心を読み取れる人の代表的な例として、「接客業」があげられます。接客業の人は他者への気配りをしながら相手目線でのサービス提供を業としているからです。当然、接客業の人すべて気が利いたり、人の心が読めたりするわけではありません。
しかし、能力が高く、長い間結果を残している接客業の人は、多くの場合社会認識スキルが高い傾向にあります。そして、接客業をはじめとした社会的認識スキルが高い人たちも、元々気が利くわけではなく、訓練のよって社会的認識スキルが高まった人も多くいます。
傾聴力は、社会認識スキルの中でも、中核を担う能力です。正しい段階を踏んでポイントを押さえれば、誰でもスキルの向上を実感できます。
傾聴力のある人の特徴
傾聴力が高い人とは「他者理解ができる人」です。具体的な特徴を2つご紹介します。
特徴①:相手が話し終わるまで口を挟まない人
傾聴力の高い人は、自分が話すよりも相手の話を聞く時間が多い点が特徴的です。よって、傾聴力を高めたい人は相手の話を聞く姿勢を意識してみると良いでしょう。
相手の言葉に耳を傾けるには、自分が話す時間を短く必要があります。相手が話している途中に自分の考えが思いつくと、相手の話を遮って自分の主張を始めてしまっている人は特に、「相手が話し終わるまで決して口を挟まない」というルールを自分に課してみると効果的です。
もしも、忘れる前に話しておきたい考えがある場合は、メモに書き留めておくと忘れずに済みます。後からタイミングを見計らって話せるので、他人の思考の流れを妨げてイヤな思いをさせません。この方法は特に、ミーティングやプレゼンテーションのときなど、アイディアや意見の交換が必要な場面で有用です。
特徴②:集中力の高い人
傾聴力の高い人は、集中力が高い点が特徴的です。頭の回転の良い人はよく、相手の会話を聞きながら返事を準備するケースがあります。
しかし、もし返事の準備をしている事実に気づいたら、すぐにストップして相手の言葉に注意を戻してください。相手が話しているときに「どのような言葉を返そうかな」と自分のことを考えるのは、十分な他者理解にならないからです。
効果的な傾聴はまず、全神経を相手に集中することから始まります。瞑想で雑念が沸いた際に、呼吸に意識を戻すのと同じように、会話中は相手飲みに集中しなければなりません。
効果的な傾聴ができていない人の多くは、会話中に自分が話しているか、自分が話す準備をしているかのどちらかです。自分ばかりに目を向けず、目の前にある相手の言葉に真剣に向き合ってみてください。
傾聴力を鍛えるための3つのポイント
傾聴力を効果的に高めるためのポイントについて、『EQ2.0 心の知能指数を高める66のテクニック』で紹介されていた方法を根拠に、3つ解説します。
ポイント①:頭の中にある雑念を排除する
1つ目のポイントは「頭の中にある邪魔なものを全て片付ける」ことです。
実は、私たち人間は気づいていないようで、頭の中で自分自身に多くの独り言を発しています。この独り言は、ときに新しいアイディアになったり、自分の気持ちを落ち着かせたりするのに重要な役割を担います。
しかし、この中にはムダなおしゃべりもあるため、そのおしゃべりが今自分にとって必要なのかを取捨選択する必要があるのです。
自分とのお喋りに忙しいと、外の世界に集中できず、社会認識力を下げる要因になりかねません。端的に言えば、社会認識スキルが低い人は、目の前の相手に集中できておらず、頭の中のムダなお喋りがストップできていない状況とも言えます。
自分の頭の中のお喋りをストップさせ、目の前の相手に全神経を集中させるためにも、今この瞬間に意識を向け、他者のみに焦点を合わせることが重要です。
頭の中でいろいろな思考をしていると、相手の感情を正確に読み取れなくなります。そのため、まずは頭の中の雑念を排除するよう、可能限り相手の言葉や存在などに集中しましょう。
ポイント②:会話中は相手の目を必ず見る
2つ目のポイントは、「会話中は相手の目を必ず見る」ことです。
相手の目を見て話すと、自分が相手に意識を向けていることが明確に伝わりますし、自分にとってもより相手に集中しやすい状態となります。まずは、体勢を空いてにむけ、会話中はできるだけ少しだけ体を相手に寄せて目をしっかりみながら聞くことが重要です。
しかし、相手の表情や仕草など、すべてを観察して感情を読み取るのは大変です。よって、基本的には目にだけ焦点を合わせておくと良いでしょう。
また、人によっては相手の目をみながら会話するのが怖いという人もいるかもしれません。
日本人同士のコミュニケーションでは特に、じっと目を向けられると話しづらい場合もあります。そのような場合は、相手の喉元に意識を向けることから始めてみてください。
男性の場合はネクタイの結び目あたりに視線を向けると、自然な雰囲気で相手に視線を向けられます。慣れてきたら、徐々に相手の瞳に視線を向けられるようになります。
ポイント③:意識を外側に向けて五感をフル活用する
3つ目のポイントは、「相手を観察する際には、五感もフル活用する」です。
自分以外の外に目を向けて、他者を理解するには、ただ見ているだけでは十分な理解につながりません。「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の五感をフルに活用し、場合によっては第六感も働かせる勢いで相手のすべてを感じる必要があります。
感覚をフルに使うと、他者の視座に近い位置から世界を見ることが可能です。相手になり切る気持ちで、相手に合わせてみてください。次第に、他者を理解できるようになります。
まとめ
EQの社会認知スキルに内包される「傾聴力」について、効果的な高め方やポイントなどを解説しました。要点は次のとおりです。
- 傾聴力とは、他人から発せられる言葉にしっかり耳を傾け、会話に内包される他者の感情を深く正確に受け止める力。
- 傾聴力は他者理解に通じる力で、訓練によって後天的に伸ばせる能力。
- 傾聴力とは、端的にいうと相手の話への集中力である。自分の価値観や考えは一旦脇に置いて、相手にのみ意識を向けると良い。
相手の気持ちは言葉だけでなく、表情や動作にも表出します。まずは友人や家族と会話をする際に、言葉や表情に意識を向けることから始めてみてください。
五感をフルに働かせて相手に意識を向ければ、今までは見えなかったさまざまなものが読み取れてくるはずです。本記事でご紹介した内容を、日常生活やビジネスでのコミュニケーションに、ぜひお役立てください。