EQの低い社会人は、会社やチームでの活躍が難しいと言われています。しかし、EQについて学校で学んだり、能力を伸ばしたりする機会は多くありません。
EQを高めるためには、まず「EQとは何か」について知ることが大切です。なぜなら、「EQとは何か」がわかれば「自分の感情のクセ」や「組織への働きかけ方」の理解につながるからです。そこで、本記事ではEQとは何なのか基本的な特徴を解説し、能力の伸ばし方を紹介します。
「EQ」とは?
まずは、EQとは何かについて解説しましょう。よく耳にするIQの違いはどこにあるのでしょうか?
EQとは「感情知能」のこと
EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」の略称です。EQの理論は1989年にイェール大学のピーター・サロベイ博士と、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士によって提唱された「感情知能」に関する学術研究がベースです。
EQの理論の要点をまとめると、次のようになります。
- 自分の「今の感情の状態」を認識してコントロールできれば、自分にとって適切な行動がとれ、前向きな感情や行動を生む。
- 相手の「今の感情の状態」を認識して配慮できる言動が取れれば、コミュニケーションがうまくいく。
つまり、EQとは自分と相手の感情を理解し、状況に応じて自分の感情を統制できる能力なのです。
EQとIQとの違い
EQと混合されやすい言葉として、よくあげられるのが「IQ(Intelligence Quotient)」です。EQとIQの相違点は主に2つあります。
1つ目の相違点は「測定する対象物」です。EQは「感情の豊かさやコミュニケーションスキルを測定する数値」であるのに対し、IQは「情報処理能力」や「答えを導き出せる力」に関する「頭の知能指数」の測定値です。
2つ目の相違点は「先天性か後天性か」です。IQはある程度遺伝で決まるといわれますが、EQは後天的に向上させられる能力です。したがって、EQが低い人は、今からの頑張り次第でもEQの能力を伸ばすことができます。
EQの測定方法
EQの値は、「EQの発揮度」を「行動面」から測定して算出することが可能です。また、EQの発揮度の高さは単一の要素で形作られるわけではなく、総合的な社会的知能の高さによって決まります。EQによって測定される知性の要素は、主に次の3つです。
- 心内知性:自分で自分の状態がわかる
- 対人関係知性:相手に適切かつ効率的に働きかけられる
- 状況判断知性:自分と相手の状態を同時に認知できる
端的にいえば、EQは「3つの知性をそれぞれどの程度身につけているか」「3つの知性のバランスがどの程度よいか」で決まります。
EQを理解するステップ
「EQとは何か」という具体的な特性理解できると、大人になってからでもEQの能力は伸ばすことが可能です。ここでは、EQを構成する要因を5つのステップに分けて解説します。
ステップ①:自分の感情を認識する
1つ目のステップは「自分の感情を認識すること」です。自分の感情を認識できると、次のような自分の感情に関する傾向を理解できます。
- 自分の言動や立ち振る舞い
- 自分の感情が動く動機
- 自分の感情の限界
- 自分の長所や短所
- 自分の感情のコントロール方法
要するに、自分の感情を認識することはEQを理解するための下地なのです。
ステップ②:自分の感情をコントロールする
2つ目のステップは「自分の感情をコントロールすること」です。自分の感情をコントロールできると、次のようなメリットがあります。
- 衝動的な感情や行動を抑制できる
- 冷静な判断・行動ができる
- 怒りや悲しみなどネガティブな感情を抑えられる
- 目の前の物事に最善を尽くせる
- 判断の先送りを減らせる
先ほどお伝えしたように、自分の感情をコントロールするためには、第一に自分の感情のクセを理解することが何より大切です。
ステップ③:自分が情熱をもてる動機から行動する
3つ目のステップは「自分が情熱をもてる動機から行動すること」です。自らの情熱を動機に行動すると、次のようなメリットがあります。
- 向上心が強くなる
- 自分でチャンスを作り出せる
- 将来の可能性を広げられる
- 目標への努力が継続できる
「自分が情熱を持てる動機」とは、お金や昇進など目に見える対価や他者からの承認欲求ではありません。「自分はどう生きたいか」「どんな人間になりたいか」といった、自らの中にある喜びや、好奇心から湧き出る本質的な願望や満足感を指します。
ステップ④:他人の感情に共感する
4つ目のステップは「他人の感情に共感すること」です。「共感」とは、相手が口に出さないような感情をくみ取り、適切な言葉や行動として反応できる能力を言います。「他人の感情に共感する」と、次のようなメリットがあります。
- 自分の社会的な立場を守れる
- 自分の社会的な立場を有利にできる
- 対人関係が良好になる
また、共感力を鍛えることは、コミュニケーション能力を高めることにもつながります。
自分と他人の関係性を調整する
5つ目のステップは「自分と他人の関係性を調節すること」です。「自分と他人の関係を調整する」とは、「自分と他者との利害関係を把握して合意点を見出す交渉力」を指し、能力を伸ばすことで次のようなメリットがあります。
- リーダーシップと説得力が身につく
- 仕事で他人を管理できる
- 自分に有利な状況に周囲を導ける
「自分と他人の関係性を調整」は、組織の中での政治力学を把握し、コントロールするという総合的なEQの力が求められます。
EQが高い人の特徴
EQが高い人がもつ特徴とは何でしょうか?ここでは、EQの高い人がもつ特徴を6つ紹介します。
特徴①:努力家
1つ目の特徴は「努力家」です。EQの高い人は、自らを高めるための努力を怠りません。なぜなら、EQの高い人は自分の感情を把握できており、一時の感情に流されることなく最善を尽くす傾向にあるからです。学業や仕事を成功に導くためにどう努力をすれば良いのか明確な目標があるため、モチベーションを保ちながらムダのない働き方や学び方ができます。
特徴②:話を聴くのが上手
2つ目の特徴は「話を聴くのが上手」です。EQの高い人は、自分のどのような感情が相手の話を聴く姿勢の妨げになるかを知っています。なぜなら、人の話をうまく聴くためには、「事実と解釈を分けて捉える」という客観的な姿勢が求められるからです。ゆえに、EQの高い人は「自分の感情」と「話し手の意図」とを切り離し、開かれた心で相手の言葉に耳を傾けられます。
特徴③:寛容的
3つ目の特徴は「寛容的」です。EQの高い人は自己認識能力が高いため、自分の価値観とは異なる物事に対して偏見をもたずに耳を傾けます。
また、相手を受け入れながら、自分の考えを伝えられるので、対立する相手との交渉も得意です。トラブルが発生したときには相手を否定することなく、適切な手助けをとおして事態を改善へと導く才能もあります。
特徴④:自分の間違いを素直に認める
4つ目の特徴は「自分の間違いを素直に認める」です。自分が間違っていると気づいたとき、EQの高い人は素直に謝罪する勇気があります。なぜなら、EQの高い人は、貴重な時間を費やしてまで言い訳を探すことを「ムダ」だと考えるからです。したがって、自分の正当性を証明しようとするよりも、正直に謝罪をして素早く軌道修正することを優先します。
特徴⑤:失敗を冷静に受け止める
5つ目の特徴は「失敗を冷静に受け止める」です。EQの高い人は、失敗して他人から批判されても、感情定的になったり動揺したりすることはありません。なぜなら、EQの高い人は自己肯定感が強く、「失敗」や「他者からの批判」は、これから先に同じ間違いを繰り返さないための「修正すべき事実」にすぎないからです。
したがって、EQの高い人は失敗や挫折があっても、いつまでもクヨクヨと悩むことはしません。間違いを分析し、改善点を見つけてすぐに次の学習や仕事に活かす行動をとります。
特徴⑥:厳しい真実を誠実に伝える
6つ目の特徴は「厳しい真実を誠実に伝える」です。EQの高い人は、厳しいメッセージをきちんと相手に伝えことの重要性を認識しているため、他人やチームにとって都合の悪い真実を隠しません。
また、EQの高い人は、自分や他人の情動に流されないため、今なすべきことを冷静に見出せます。自分が厳しい事実を告白するうえで「他人がどう動くか」をしっかりと推理できているので、自分が思い描く結果へと導くことが可能なのです。
EQが低い人の特徴
一方で、EQの低い人とは一体どのような人なのでしょうか?ここでは、EQの低い人がもつ特徴を6つ紹介します。
特徴①:共感性が低い
1つ目の特徴は「共感性が低い」です。EQの低い人は相手の気持ちに寄り添うことが苦手な傾向にあります。なぜなら、EQの低い人は、他人のもつ「話したい」という感情より、自分の「話したい」という感情を優先させるからです。
たとえば、EQの低い人は、相手の話が終わらないうちに否定的な意見を話しはじめてしまうことがあります。ビジネスで深刻な判断を下す場合には、厳しい意見を即座に伝える必要性もありますが、プライベートで友達やパートナーへ共感性の低い反応をしたら、相手を傷つけてしまうかもしれません。
特徴②:他人のミスを許せない
2つ目の特徴は「他人のミスを許せない」です。EQの低い人は、相手をなかなか許せません。なぜなら、EQの低い人は、決められた反応や自分にとっての常識の範囲内でしか発言や行動ができず、柔軟性や寛容性が乏しいからです。
したがって、自分の予想していた結果にならないと、脳が許容できないほどのストレスを感じて、感情をコントロールできない事態になります。
特徴③:グチが多い
3つ目の特徴は「グチが多い」です。EQの低い人は違和感のある状態を耐えることが苦手で、自分の言動に対する責任感に欠けているため、何かトラブルがあると他人に不平不満をぶつける傾向にあります。
他人に自分の感情をストレートに伝えたり、自分の思うままに行動してしまったりするため、結果として相手の気持ちを傷つけ、信頼を失う事態になりかねません。
特徴④:協調性が低い
4つ目の特徴は「協調性が低い」です。EQの低い人は協調性が低く、自己中心的な行動を取りやすい傾向にあります。なぜなら、EQの低い人は他人の感情に鈍感で、自分の感情を優先させる傾向にあるからです。
感情のコントロールがうまくできないため、自分の思うとおりに周囲が動かないとイライラしてしまいます。結果、周囲のからは「わがままなで傲慢な人」と、思われてしまうこともあるようです。
特徴⑤:すぐ怒る
5つ目の特徴は「すぐ怒る」です。EQの低い人は、感情的になりやすい傾向にあります。なぜなら、EQの低い人は、感情のコントロールがうまくできないからです。
人間の脳には「感情」と「理性」の2つを司る部位がそれぞれあります。しかし、EQの低い人は「理性」を司る部位の活動が活発ではありません。したがって、少しでも自分の感情の気持ち悪さが生じると、感情の気持ち悪さを取り除こうとして、ネガティブ感情を表出してしまうのです。
伝える感情が「嬉しい」「楽しい」などの前向きな感情であれば、周囲を明るくするポジティブな面もあるでしょう。しかし、怒りや悲しみなどのネガティブな感情の場合、感情的になってしまうことは、周囲から敬遠される原因になりかねせん。
特徴⑥:プライドが高い
6つ目の特徴は「プライドが高い」です。EQの低い人はプライドが高く、自分の意見を絶対視して押し通す傾向にあります。なぜなら、EQの低い人は、周囲は自分よりも劣っているという意識があるからです。
自分の考えはいつも一番正しいと思っているため、他人から自分の意見を否定されるとプライドが傷つけられたと感じて過剰に苛立ちます。その結果、周囲からは「いつも相手を見下している人」「自信過剰な人」というイメージをもたれてしまうのです。
EQを高める方法
EQとは後天的な能力なので、大人になってからでも伸ばすことが可能です。ここでは、今すぐ簡単に実行できるEQの高め方を紹介します。
相手の話を聴く
今まで以上に相手の話を聴く姿勢を大切にしましょう。なぜなら、相手の感情への理解は、相手の思いを言葉で直接聴くことにより高められるからです。
また、相手の話を聴く際には、特に次のことに関心をもって聴くことがポイントといえます。
- 相手が話しているときの気持ち
- 相手に自分がかけてあげるべき言葉
- 相手に自分がかけるべきではない言葉
- 相手の話を聴くだけがベストかどうか
加えて、細かい部分になりますが、話を聴く際は次のような姿勢を意識してみましょう。
- 適切なタイミングの相槌
- 理解を表明する言葉の反復
- 適度に相手の目を見る
言葉だけでなく、非言語の面でも相手の気持ちに共感している姿勢を示せれば、「自分の話をしっかり聴いてくれている」ことが相手に伝わりやすくなります。
日記を書く
日記を書く行為はEQを高めるために有効な方法です。なぜなら、自分の行動と感情には関連性があり、日記を書くことは「なぜ行動が生まれて気持ちを生んだのか」の客観的な分析に役立つからです。
また、日記を書く際には、漠然と出来事を書くのではなく、「なぜ」「どうして」という理由も一緒に記入することがポイントです。理由を一緒に書くと、自分の感情をより冷静かつ前向きな視点で見なおせるからです。自らの感情を紙に書いて可視化すると、感情のコントロール力や感情の表現力が高まり、EQが向上していると実感できるでしょう。
アサーションを習得する
アサーションとは、「相手に不快な思いをさせずに立場を尊重しながらも、自分の主張をしっかりと伝えるコミュニケーションスキル」です。アサーションの習得は、自己主張の苦手な人が無理せず「ノー」と言うのに役立ちます。
相手の頼みごとを断る行為は、相手の人格を拒絶する行為ではありません。自分に無理しないためにも、自分の意に反する依頼や承諾したくないときには「ノー」と断ることを習慣づけましょう。
断る際には、「自分にとって大切なものは何か」「何を断るのか」を明確にするのがポイントです。「本当は断りたくないのですが」と、丁寧に前置きをしてから断る理由を伝えれば、相手の気分を害さずに相手から理解を得られます。
他人の良いところを見つける
相手のよい部分を見つけて認める習慣をもてれば、EQを高められます。しかし、「他者の良いところを見つける」といっても、無理に相手を褒める必要はありません。相手がもつ「素敵な部分」「真似したい部分」など、周囲の人がもっているポジティブな特徴に少しずつ目を向けて、相手への尊敬につなげましょう。
「自分が尊敬される」ことはもちろん尊いですが、自分が尊敬される前提には「相手を尊敬する」という姿勢が大切です。EQの高い人は「相手のよい部分を素直に認められることが、他者と良い関係を作るうえで重要である」と知っている人であるともいえるでしょう。
純文学を読む
純文学を読むと、EQにおいて重要な要素の一つである「共感力」を高められます。
ニュースクール大学で、「大衆小説」「純文学」「ノンフィクション」などのジャンルに文学をグループ分けし、「他者に感情移入ができるかどうか」のチェックテストを実施した研究結果によれば、純文学を読んだ実験のグループのみ共感力が飛躍的に上がると判明しました。なぜなら、純文学の「フィクションの中で複雑な心の機微を描いている」という特性が、読む人の心の機微を揺れ動かしたからです。
つまり、「共感力を手っ取り早く高めたい」という人は、純文学に挑戦してみると他者への気持ちを理解する力を高められるともいえます。
まとめ
EQとは一体どのような力なのか、EQの特徴や高め方を交えて解説しました。要点は次のとおりです。
- EQとは、「自分と相手の感情を理解し、状況に応じて自分の感情をコントロールできる能力」をいう
- EQは大人になってからでも高められる後天的な能力である
- IQだけでなくEQを高めることが社会人として活躍するうえで重要である
社会人として仕事をする際、自分の感情を正しく認識し、相手に配慮しながら行動できるスキルは非常に重要です。周囲と協調し合って自分の能力を最大限に発揮させられると、活躍できる世界はどんどん広がっていくでしょう。